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光のしまなみ、夏のさざなみ  作者: 双鶴


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第8話 城山公園と、風を撮るということ

翌日の放課後。

すずが部室に入ってくるなり、湊の方へまっすぐ歩いてきた。


「……湊くんの、昨日の写真。砂が舞うやつ。

 あれ、すごくよかった」


湊は少し照れながら笑った。


「ありがとう。偶然だけどね」


「偶然じゃないと思う。

 “動く空気”が写っとった。

 ……だから、風を撮りに行きたい」


すずはそう言って、窓の外の松山城を見上げた。


「城山公園。あそこ、風が通る」


ひよりが手を叩いた。


「いいね! 城山公園なら湊くんも好きやと思うよ。

 松山城の麓で、街も海も見えるんよ」


悠斗も頷く。


「風撮るなら、あそこが一番やな。

 行こか、湊」


湊は胸の奥が少し熱くなるのを感じた。


「……うん、行きたい」


四人は学校を出て、城山公園へ向かった。



城山公園は、松山城の麓に広がる緑の丘だった。

春の風が木々を揺らし、葉の影が地面に細かく揺れている。


夕方の光が差し込み、

木漏れ日が芝生の上に金色の模様を描いていた。


「ここ……すごい」


湊は思わず呟いた。


丘の上からは、松山の街並みが一望できた。

遠くには伊予灘が薄い青の帯となって揺れ、

その上を春の風がゆっくりと渡っていく。


ひよりがスマホを構えながら言った。


「ここね、松山の“風の通り道”なんよ。

 夕方になると、海からの風がふわーって上がってくるんよ」


すずは木の下に立ち、

そっと手を伸ばして風を感じていた。


「……風って、写るよ。

 葉っぱの揺れとか、光の揺れとか。

 湊くんの砂みたいに」


悠斗が湊の肩を軽く叩いた。


「湊、風撮るときはな、

 “揺れと光”を一緒に入れるんや。

 風そのものは見えんけん、

 風が触れたものを撮るんよ」


湊は木漏れ日を見つめた。

風が吹くたびに、光の模様が揺れる。

その揺れが、まるで呼吸のようにゆっくりと動いていた。


「……これ、撮れるかな」


「撮れるよ」

すずが小さく頷いた。

「湊くんなら、撮れる」


湊はスマホを構え、

木漏れ日の揺れをじっと見つめた。


風が吹く。

葉が揺れる。

光が揺れる。

影が揺れる。


その一瞬、

光の粒がふわりと舞い上がったように見えた。


シャッターを切る。


画面には、

揺れる光の模様が柔らかく滲み、

風の気配が静かに写り込んでいた。


「……撮れた」


ひよりが覗き込み、目を丸くした。


「わぁ……湊くん、これすごいよ。

 光が生きとるみたい」


悠斗も感心したように唸った。


「ほんまや。

 湊、お前の写真……なんか“呼吸”しとるな」


すずは湊の写真を見て、

小さく微笑んだ。


「……風、写っとる」


湊は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


城山公園の風が、

木々を揺らし、光を揺らし、

四人の影を長く伸ばしていく。


夕陽が沈みかけ、

松山の街が薄い橙色に染まっていく。


湊は思った。


――この街の光と風を、もっと撮りたい。


その気持ちは、

春の風と一緒に、静かに胸の奥へ染み込んでいった。


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