第7話 夕暮れのグラウンドと、砂が舞う瞬間
放課後のグラウンドは、夕陽に照らされて金色に染まっていた。
野球部の掛け声が響き、バットの乾いた音が空気を震わせる。
「湊、今日は野球部撮ってみよか」
悠斗がカメラバッグを肩にかけながら言った。
「え、いいの? 勝手に撮って大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。俺、野球部のやつらと仲ええけん。
“写真部が練習撮りたいって”言うたら喜ぶわ」
悠斗は軽く手を挙げ、野球部のキャプテンに声をかけた。
キャプテンは「おー佐伯!撮って撮って!」と笑いながら手を振る。
湊はスマホを構え、
夕陽に照らされたグラウンドを見渡した。
土の匂い。
汗の匂い。
夕陽の光が砂粒を照らし、
選手たちの影が長く伸びている。
「湊、まずは普通に撮ってみ。
動きのある被写体は難しいけん」
「うん……」
湊は走り抜ける選手を追い、
シャッターを切った。
だが、どこか物足りない。
もっと“瞬間”を撮りたい。
もっと“動きの中の光”を掴みたい。
湊はふと、地面に目を向けた。
ベースに向かって走る選手の足元。
砂が舞い上がる瞬間。
夕陽がその砂粒を照らし、
金色の粒子がふわりと浮かび上がる。
――これだ。
湊はしゃがみ込み、
さらに地面スレスレまでスマホを下げた。
「おいおい湊……」
悠斗が呆れたように笑う。
「そんなアングルで撮ったら女子に盗撮って言われんぞ」
「ち、違うって……!
砂が舞う瞬間が綺麗で……」
「分かっとる分かっとる。冗談や」
悠斗は肩をすくめ、
しかしその目はどこか楽しそうだった。
「でもな、湊。
その“地面の目線”って、なかなか出てこん発想やぞ。
普通は選手の顔とかフォーム撮りたがるけん」
湊は砂の舞い上がる瞬間を狙い、
シャッターを切った。
画面には、
夕陽に照らされた砂粒が金色の軌跡を描き、
選手の足がその中を駆け抜けていた。
「……撮れた」
「見せてみ」
悠斗が覗き込み、
一瞬だけ目を見開いた。
「……お前、ほんまに初心者か?
これ、めっちゃええやん」
「ほんと?」
「ほんと。
湊のセンス、ちょっと面白いわ。
俺にはない視点やけん」
湊は照れくさく笑った。
「ありがとう。
悠斗が教えてくれたからだよ」
「いやいや、これは湊の力や。
……それに、男子が入ってくれて正直嬉しいんよ」
「え?」
「写真部、女子ばっかでな。
ひよりとすずに囲まれとったら、
なんか俺だけ浮いとる気がしてさ」
悠斗は笑いながら、
夕陽に照らされたグラウンドを見つめた。
「湊が来てくれて、ちょっと楽になったわ。
これから一緒に、いろんな景色撮ろうや」
湊は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「うん。よろしく」
夕陽が沈みかけ、
グラウンドの砂が赤く染まる。
その中で、
湊と悠斗の影が並んで伸びていた。
――この街で、
少しずつ“仲間”ができていく。
湊はそのことが、
ただ嬉しかった。




