第5話 梅津寺駅と、光の撮り方
放課後、写真部の初めての活動として、
ひよりが提案したのは「梅津寺駅」だった。
「松山で一番“映える”場所なんよ。
湊くん、絶対好きやと思う」
そう言われて、湊は内心少しだけ胸が高鳴った。
電車に揺られて二十数分。
車窓の外に海が近づいてくると、
ひよりが嬉しそうに指をさした。
「ほら、もうすぐ海が見えるよ」
電車が梅津寺駅に滑り込むと、
湊は思わず息を呑んだ。
ホームのすぐ向こうに、伊予灘が広がっている。
遮るものは何もなく、
海と空がひとつの青い帯になって揺れていた。
「……すごい」
「でしょ? ここ、夕陽がめっちゃ綺麗なんよ」
ひよりはスマホを取り出し、
ホームの端に立って海を背景に構えた。
「湊くん、スマホで撮るときはね、
逆光を怖がらん方がいいよ」
「逆光?」
「そう。太陽を背にするんじゃなくて、
あえて太陽を入れるんよ。
光がふわっと広がって、綺麗に写るけん」
ひよりは太陽を画面の端に入れ、
シャッターを切った。
画面には、
海の上に広がる光の粒子が柔らかく滲み、
ひよりの髪が金色に縁取られていた。
「……ほんとだ。綺麗」
「でしょ? 松山の光ってね、
ゆっくりで、優しいんよ。
スマホでも十分“絵”になるんよ」
その言葉は、湊の胸に静かに落ちた。
悠斗がホームのベンチに座り、
海を眺めながら言った。
「湊、海撮るときは水平線が大事やけん。
傾いどったら全部台無しや」
「なるほど……」
「あと、海は風が写る。
波の形とか、光の揺れとか。
それを見つけられたら一人前や」
すずはホームの端で、
フィルムカメラを胸に抱えながら海を見ていた。
「……波の音、写るかな」
「写るよ、すずちゃんの写真なら」
ひよりが笑うと、
すずは少しだけ頬を赤くした。
湊はスマホを構え、
海と空の境界をゆっくりと見つめた。
――きれいだと思ったらね、ちゃんと見つめてあげるんよ。
母の言葉が、また胸の奥で響く。
シャッターを切ると、
画面の中に、
光の粒がふわりと舞い降りた。
「湊くん、いいの撮れた?」
ひよりが覗き込む。
湊は少し照れながら画面を見せた。
「……なんか、光が綺麗に入った」
「うん、めっちゃいいよ。
湊くん、センスあると思う」
その言葉に、湊の胸が少しだけ熱くなった。
電車がホームに入ってくる。
夕陽が海に沈みかけ、
ホーム全体が金色に染まっていた。
湊は思った。
――この街の光を、もっと撮りたい。
その気持ちは、
海風と一緒に静かに胸の奥へ染み込んでいった。




