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光のしまなみ、夏のさざなみ  作者: 双鶴


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第4話 写真部の自己紹介

放課後の校舎は、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。

廊下の窓から差し込む西日が床に長い影を落とし、

その光の帯の中を、ひよりが軽い足取りで歩いていく。


「部室、こっちだよ」


湊はその後ろをついていきながら、

胸の奥が少しだけ高鳴っているのを感じていた。

新しい場所、新しい人たち。

そのすべてが、松山の春の光と同じように柔らかく胸に広がっていく。


ひよりが扉を開けると、

小さな部室に、夕陽が斜めに差し込んでいた。


窓際の机に座っていた男子が顔を上げる。

短く切った髪、落ち着いた目つき。

ひよりが言っていた“悠斗先輩”だろう。


「お、来たんか。転校生くん?」


ひよりが嬉しそうに頷く。


「うん。今日から写真部に入ってくれるんよ」


湊は軽く頭を下げた。


「藤沢湊です。よろしくお願いします」


悠斗は椅子を回し、湊の方へ向き直った。


「俺は佐伯悠斗。2年2組。

 写真は……まぁ、好きで続けとるだけやけどな。

 風景撮るのが好きや。特に橋とか」


「橋……?」


「しまなみ海道が好きなんよ。

 あそこは、光と風の通り道やけん」


その言葉は、湊の胸に静かに響いた。

“光と風の通り道”――

写真を撮る理由として、こんなに美しい言葉があるのかと思った。


そのとき、部室の隅でフィルムをいじっていた小柄な女の子が顔を上げた。

黒髪を肩で切りそろえ、瞳はガラス玉のように澄んでいる。


「……立花すず。3組」


声は小さいが、はっきりしていた。


ひよりが補足するように笑う。


「すずちゃんはフィルム派なんよ。

 デジタルより“時間が写る”って言ってね」


すずは少しだけ頬を赤くしながら言った。


「音とか……匂いとか……

 そういうの、フィルムの方が残る気がする」


湊は思わず聞き返した。


「音が……写る?」


すずは小さく頷いた。


「うん。波の音とか、風の音とか。

 写真って、目で見るだけじゃないから」


その言葉は、湊の胸にそっと落ちた。

写真というものが、ただの“記録”ではなく、

もっと深い何かを抱えているように思えた。


ひよりが湊の方へ向き直る。


「じゃあ、湊くんの番やね」


湊は少しだけ息を吸い、

窓の外の夕陽を見た。


「……藤沢湊。2年1組。

 写真は……まだよく分からないけど、

 松山に来て、撮りたい景色がいっぱいあるって思った」


ひよりが嬉しそうに微笑む。


「それで十分なんよ。

 “撮りたい”って気持ちが一番大事なんよ」


悠斗が腕を組んで頷く。


「機材なんかどうでもええ。

 スマホで十分や。

 大事なんは、どんな光を見つけるかやけん」


すずも小さく言った。


「……うん。光、だいじ」


湊は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

この3人となら、

きっと松山の光をもっと深く知ることができる。


ひよりが手を叩いた。


「じゃあ、最初の活動は――

 松山の街を歩きながら、好きなものを撮ってみよ!」


夕陽が部室の窓を赤く染める。

その光の中で、4人の影がゆっくりと重なった。


湊は思った。


――この4人で見る景色は、きっと特別になる。


松山の春の光が、

その始まりを静かに照らしていた。


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