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光のしまなみ、夏のさざなみ  作者: 双鶴


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第30話 今治城と、海のそばの白い城

今治駅に降り立つと、

松山とは少し違う空気が流れていた。


潮の匂い、

港町の静けさ、

そしてどこか懐かしいような落ち着き。


「着いたねぇ……!」

ひよりが伸びをする。


「旅って感じやな」

悠斗がリュックを背負い直す。


すずは駅前の空を見上げて、

小さく息を吸った。


「……海の匂い」


湊はその言葉に、

胸が少しだけ高鳴った。


(松山とは違う“海の街”なんだ)


加藤先生が言う。


「まずは今治城に行くぞ。

 海のそばに建つ珍しい城だ」


ひよりが嬉しそうに説明を添える。


「そうそう。

 “海水のお堀”があるんよ。

 全国でも珍しいんよ」


悠斗が驚く。


「海水!?

 魚とか泳いどるん?」


「泳いどるよ。

 クロダイとかフグとか」


「フグ!?

 城の堀にフグ!?」


すずが静かに笑った。


「……今治らしい」



駅から歩いて15分ほど。

白い天守が見えてきた。


「うわ……綺麗」

湊は思わず立ち止まった。


今治城は、

海のそばに立つ白い城。

天守の白壁が空に映え、

堀には海水が満ちている。


ひよりが言う。


「今治城はね、藤堂高虎が築いたんよ。

 “築城の名手”って呼ばれとる人」


加藤先生が補足する。


「高虎は全国で20以上の城を手がけた。

 今治城はその代表作の一つだ」


悠斗が堀を覗き込む。


「ほんまに魚おる!

 あれクロダイちゃう?」


すずが指さす。


「……あそこ、フグ」


「ほんまや!!」


湊は笑いながらスマホを構えた。


堀に揺れる白い天守、

海水の青、

泳ぐ魚の影。


(松山城とは全然違う)


ひよりが湊の横に立つ。


「湊くん、今治城は“水面の模様”が綺麗なんよ。

 風が吹くと、天守が揺れて見えるんよ」


湊は試しに撮ってみた。


水面に映る天守が、

ゆらりと揺れて形を変える。


「……面白い」


すずが静かに言った。


「……水の模様は、風の足跡」


悠斗が笑う。


「すず、詩人やなぁ」


すずは少しだけ頬を膨らませた。


「……詩人じゃない」


ひよりが吹き出す。


「すずちゃん、かわいい」


湊はそのやり取りを見ながら、

胸の奥がじんわりと温かくなった。


(旅って……こういう時間がいいんだな)



天守に登ると、

今治の街と海が一望できた。


港、造船所のクレーン、

しまなみ海道へ続く海の道。


悠斗が言う。


「おお……造船所、でっかいな」


ひよりが説明する。


「今治は造船の街なんよ。

 日本でもトップクラスなんよ」


加藤先生が頷く。


「造船所のクレーンは“今治のシンボル”だな」


すずは静かに海を見つめた。


「……遠くまで続いとる」


湊はその横顔を見て、

胸が少しざわついた。


(すずさんは、やっぱり“見てるもの”が違う)


ひよりはその視線に気づき、

胸の奥が少し揺れた。


(……まただ)


でも、

旅の楽しさがその揺れを少し和らげてくれた。



天守を降りると、

加藤先生が言った。


「そろそろ昼にしよう。

 今治の名物を食べに行くぞ」


悠斗が拳を握る。


「来た!

 焼豚玉子飯!!」


ひよりが笑う。


「湊くん、初めてやろ?

 絶対好きになるよ」


すずは静かに言った。


「……甘い香りがする」


湊は思わず笑った。


(今治の旅、まだ始まったばかりだ)


白い城を背に、

五人は昼食へ向かって歩き出した。


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