第29話 今治へ向かう朝と、旅の始まり
土曜日の朝。
松山駅のホームには、
少し早い夏の匂いが漂っていた。
湊、ひより、悠斗、すず、
そして加藤先生の五人は、
今治へのミニ合宿に向けて集合していた。
「なんか……修学旅行みたいやね」
ひよりが笑う。
「いや、合宿やろ。
写真部の強化合宿」
悠斗が胸を張る。
すずは静かに言った。
「……旅の光、楽しみ」
湊はその言葉に胸が高鳴った。
(今治……初めて行く)
電車がホームに滑り込む。
青い車体が朝の光を反射していた。
電車が動き出すと、
松山の街並みがゆっくり後ろへ流れていく。
田園風景、
遠くに見える石鎚山系の稜線、
朝の光に揺れる雲。
ひよりが窓に額を寄せる。
「松山から今治って、
山と海の“間”を抜けていくんよ」
悠斗が頷く。
「途中の景色、めっちゃ綺麗やで。
写真撮るなら今や」
湊はスマホを構えた。
車窓に映る朝の光、
田んぼの水面に揺れる空、
遠くの山の影。
(……松山とは違う光だ)
すずが小さく呟く。
「……風が変わった」
湊はその言葉に、
胸の奥が少しざわついた。
(すずさんは、やっぱり光の声を聞いてる)
加藤先生が笑う。
「みんな、今日は撮影だけじゃないぞ。
今治の文化も、食も、街も、
全部“感じる”ことが大事だ」
ひよりが嬉しそうに言う。
「先生、鯛めし食べられるんですか?」
「もちろん。
あと焼豚玉子飯もな」
悠斗が拳を握る。
「絶対食う!」
湊は笑った。
(……楽しみだな)
電車が海沿いに差しかかる。
朝の光が海面に反射し、
銀色の帯のように揺れていた。
ひよりが言う。
「湊くん、見て。
今治の海はね、
“静かに光る”んよ」
すずが続ける。
「……松山の海より、
少しだけ青が深い」
湊はその光を撮った。
画面には、
朝の海と、
揺れる光の粒が写っていた。
(……綺麗だ)
電車が今治駅に近づくと、
街の空気が少し変わった。
港町の匂い、
潮風の気配、
どこか懐かしい静けさ。
加藤先生が言う。
「さぁ、今治に着くぞ。
今日から二日間、
しっかり撮って、しっかり楽しめ」
電車が止まり、
扉が開く。
湊は深呼吸した。
――今治の旅が、始まる。




