第28話 後半の風と、伊予の空の下で
ハーフタイム。
スタジアムには、熱気と風が入り混じった独特の空気が漂っていた。
湊はベンチに座り、
撮った写真を見返していた。
「……全部、動いてる」
ブレている。
でも、
そのブレが“生きている証”みたいに見えた。
悠斗が隣で笑う。
「湊、後半はもっと速くなるで。
覚悟しとけよ」
ひよりがタオルマフラーを握りしめる。
「どっちも点入れてほしいけど……
やっぱり愛媛FCに勝ってほしいな」
すずは静かに言った。
「……風が変わる。
後半、光が低くなる」
湊はその言葉に、
胸の奥がまた熱くなった。
(すずさんは、やっぱり光の声を聞いてる)
後半開始の笛が鳴る。
スタジアムが一気に揺れた。
愛媛SCのサイド突破、
今治の鋭いカウンター、
芝が舞い、
ボールが弾む。
湊は必死にシャッターを切った。
「うわっ、速い……!」
ひよりが叫ぶ。
「湊くん、あれ撮って!」
「無理だよ、速すぎる!」
悠斗が笑う。
「湊、影や影!
影が止まる瞬間狙え!」
すずが指さした。
「……今」
湊はその瞬間、
走り込む選手の影が一瞬だけ止まったのを見た。
シャッター。
画面には、
芝を蹴り上げる足、
舞い上がる緑の粒、
選手の横顔、
夕陽の光。
「……撮れた」
ひよりが目を丸くする。
「湊くん、すごいよ!
“瞬間”が写っとる!」
悠斗も満足そうに頷いた。
「おお、ええやん。
これ、展示に出せるで」
すずは静かに微笑んだ。
「……風の音がする」
湊は胸の奥がじんわりと熱くなった。
(やっと……撮れた)
試合は1-1のまま、
ロスタイムへ。
スタジアム全体が息を呑む。
愛媛SCのフリーキック。
ボールが放たれ、
ゴール前で混戦になり――
バーン!
クロスバーに当たって跳ね返った。
「うわあああああ!」
スタジアムが揺れた。
そのまま試合終了。
勝敗はつかなかった。
でも、
スタジアムには満足した空気が漂っていた。
ひよりが言う。
「なんか……すごかったね」
悠斗が笑う。
「ダービーはこれや。
勝っても負けても、胸が熱くなる」
すずは静かに呟いた。
「……光が、最後まで走っとった」
湊はスタジアムを見渡した。
芝の匂い、
風の音、
人々の声。
全部が胸に残っていた。
(もっと……撮りたい)
帰り道、
夕暮れの空を見上げながら湊は言った。
「……次は、今治にも行ってみたいな」
ひよりが笑う。
「いいね。
今治のスタジアムも綺麗なんよ」
悠斗が頷く。
「しまなみ越えて行くのもええな」
すずは静かに言った。
「……海の光、撮りたい」
湊は思った。
――まだ見ぬ光が、またひとつ増えた。
伊予ダービーの余韻が、
四人の胸に静かに残っていた。




