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光のしまなみ、夏のさざなみ  作者: 双鶴


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第24話 姫だるまと、姫てまりと、霧の森の甘さ

坂の上の雲ミュージアムから数日。

ひよりの心は、少し落ち着いていた。


(……あの日、湊くんと歩けてよかった)


そんな気持ちを抱えたまま迎えた土曜日。

写真部の四人は、校内展示の準備のために

松山の“手仕事”を撮りに行くことになった。


向かったのは、

道後の小さな工房。


店先には、

赤い頬をした丸い人形――

姫だるまが並んでいた。


「わぁ……かわいい」

ひよりが思わず声を上げる。


湊は手に取ってみた。


丸くて、

小さくて、

どこか“守ってくれる”ような形。


「……なんか、優しい顔してる」


すずが静かに言った。


「……姫だるまは、願いを叶えるんよ。

 転んでも起き上がるから」


悠斗が笑う。


「すず、詳しいな。

 松山の子って感じや」


湊は姫だるまを撮った。

光が丸い頬に反射して、

柔らかい影が生まれる。


(……すずさんの言う“光の声”って、こういうことなのかな)



次に訪れたのは、

色とりどりの糸が並ぶ工房。


そこには、

手のひらサイズの球体――

姫てまりが吊るされていた。


ひよりが目を輝かせる。


「見て湊くん!

 これ全部、糸で作っとるんよ」


湊は驚いた。


「えっ……これ、全部手縫い?」


「そうよ。

 模様ごとに意味があるんよ。

 “幸せが続くように”とか」


すずは姫てまりをそっと手に取った。


「……糸の音がする」


「糸の音?」

湊が聞き返す。


すずは小さく頷いた。


「……ほどけんように、

 優しく結ばれとる音」


湊はその言葉に胸がざわついた。


(すずさんの感性って……やっぱり特別だ)


ひよりはその横顔を見て、

胸の奥がまた少し揺れた。


(……でも、今日は大丈夫。

 私も湊くんと話せるけん)



撮影を終えた帰り道。

四人は大街道の商店街に寄った。


ひよりが言う。


「ねぇ、霧の森大福買って帰らん?

 今日、入荷しとるはずなんよ」


悠斗が目を輝かせる。


「マジか!

 あれ、すぐ売り切れるやつやん!」


すずも静かに言った。


「……抹茶の香り、好き」


湊は初めて聞く名前に首をかしげた。


「霧の森大福って……そんなに人気なの?」


ひよりが笑う。


「うん。

 外はもちもち、中は濃い抹茶クリーム。

 松山の人はみんな大好きなんよ」


店に入ると、

ちょうど最後の数箱が並んでいた。


四人は一つずつ買い、

商店街のベンチに座って食べた。


湊が一口かじる。


「……うまっ」


抹茶の香りがふわっと広がり、

甘さとほろ苦さが舌の上で溶けていく。


ひよりが嬉しそうに笑う。


「でしょ?

 これ、松山の宝物なんよ」


すずも小さく頷いた。


「……静かな甘さ」


悠斗が言う。


「湊、松山の味にハマっとるな」


湊は笑った。


「うん。

 なんか……落ち着く味だね」


ひよりはその言葉に、

胸がじんわりと温かくなった。


(……湊くん、

 この街を好きになってくれとるんや)


それが、

ひよりにとって何より嬉しかった。



夕暮れの商店街を歩きながら、

湊は思った。


姫だるまの丸い光、

姫てまりの糸の模様、

霧の森大福の静かな甘さ。


どれも、

松山の“優しさ”そのものだった。


そしてその優しさの中で、

ひよりの笑顔が

いつもより少しだけ近く感じられた。


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