第20話 三津浜海岸と、風の匂い
愛媛SCの練習撮影から一週間。
写真部の四人は、放課後の部室で写真の整理をしていた。
「湊くんの芝の写真、やっぱりすごいね」
ひよりが言う。
「すずちゃんの影の写真も、プロみたい」
悠斗が笑う。
すずは少し照れながら呟いた。
「……光が綺麗やっただけ」
湊は写真を見返しながら思った。
(動くものを撮るのって……やっぱり楽しい)
そんなとき、ひよりが言った。
「ねぇ、次は“三津浜海岸”行かん?
夕陽がめっちゃ綺麗なんよ」
悠斗が頷く。
「ええやん。
あそこは“静けさ”が撮れる場所や」
すずも静かに言った。
「……風の匂い、好き」
湊はその言葉に、胸が少し温かくなった。
土曜日の午後。
四人は三津駅で降りた。
駅舎はどこか懐かしい木造で、
ホームには春の光が柔らかく差し込んでいた。
「なんか……時間がゆっくりしとるね」
ひよりが言う。
駅前の商店街は静かで、
古い看板、
閉まりかけの魚屋、
潮の匂いを運ぶ風。
湊は思わず深呼吸した。
「……海の匂いだ」
すずが小さく頷く。
「……三津の風は、優しい」
悠斗が笑う。
「ほら、海はすぐそこや」
三津浜海岸に着くと、
海は穏やかで、
波が静かに砂を撫でていた。
夕陽が傾き始め、
海面が金色に揺れている。
ひよりが言う。
「湊くん、ここは“水平線の光”が綺麗なんよ」
湊はスマホを構えた。
しかし――
「……あれ、海が白く飛ぶ」
悠斗が覗き込む。
「海はな、光が強いけん、
“影を入れる”と締まるんや」
すずが指さした。
「……岩の影、使うといい」
湊は岩場に少し移動し、
影を画面に入れて撮り直した。
今度は――
海の青と夕陽の金色が混ざり、
波の白が柔らかく浮かび上がった。
「……撮れた」
ひよりが目を丸くする。
「湊くん、めっちゃ綺麗!」
悠斗も頷く。
「おお、ええやん。
海の“重さ”が出とる」
すずは静かに微笑んだ。
「……風の音まで写っとる」
湊は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
四人は海岸に並んで座り、
ゆっくり沈んでいく夕陽を眺めた。
ひよりが言う。
「なんか……こういう時間、好きやなぁ」
悠斗が笑う。
「分かるわ。
海って、なんか落ち着くよな」
すずは静かに呟いた。
「……光が、帰っていくみたい」
湊はその言葉に、
胸が少しだけ締めつけられるような、
でも温かい気持ちになった。
海は静かで、
風は優しく、
夕陽はゆっくりと沈んでいく。
(また……撮りたい)
湊は思った。
――この海の先には、
しまなみ街道があって、
その先には尾道がある。
まだ見ぬ光が、
またひとつ湊を呼んでいた。




