第16話 坊っちゃん列車と、坂道の光
日曜日の午前。
写真部の四人は、松山市駅前に集まっていた。
「今日は“動くもの”を撮るんよ」
ひよりが言う。
「動くもの……?」
湊が首をかしげると、悠斗が笑った。
「坊っちゃん列車や。
あれは松山の象徴みたいなもんやからな」
すずは静かに付け加えた。
「……煙、写るかな」
湊はその言葉に胸が少し高鳴った。
坊っちゃん列車がゆっくりと駅に入ってきた。
黒い車体、
真鍮のパーツ、
小さな煙突から上がる白い煙。
観光客が一斉にスマホを構え、
シャッター音があちこちで響く。
「湊くん、動くものはね、
“来る方向”を予測して構えるんよ」
ひよりが言う。
湊は線路の先に視線を向け、
スマホを構えた。
しかし――
「……あっ、ブレた」
悠斗が覗き込む。
「動く被写体は難しいんや。
でも、ブレても“味”になることもある」
すずが指さした。
「……煙、逆光で撮ると綺麗」
湊は逆光側に回り、
煙が光を透かす瞬間を狙ってシャッターを切った。
画面には、
白い煙が金色に縁取られ、
列車の黒い車体が静かに浮かび上がっていた。
「……できた」
ひよりが目を丸くする。
「湊くん、めっちゃ綺麗に撮れとるよ」
悠斗も満足そうに頷いた。
「煙の“立体感”が出とるな」
すずは静かに微笑んだ。
「……動く光、掴んだね」
湊は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
列車を見送ったあと、
四人はロープウェイ街へ向かった。
坂道の両側には、
土産物屋、カフェ、雑貨屋が並び、
観光客の笑い声が絶えない。
「ここは“坂道の影”が綺麗なんよ」
ひよりが言う。
湊は坂の上から見下ろした。
人の流れ、
店の暖簾、
石畳の影、
ロープウェイのワイヤーが空に伸びている。
「……すごい。
全部が動いてるみたい」
悠斗が肩を叩く。
「湊、街撮りは“高さ”を使うんや。
坂道はそのまま構図になる」
すずが小さく指さした。
「……影の“長さ”を見るといい」
湊は坂の途中に立ち、
影が長く伸びる位置を探して撮った。
石畳の影が柔らかく揺れ、
観光客の足元がリズムのように並んでいた。
「……撮れた」
ひよりが覗き込み、
嬉しそうに笑う。
「湊くん、街の“流れ”が写っとるよ」
悠斗も頷いた。
「坂道は難しいのに、よう撮れとる」
すずは静かに言った。
「……光が、歩いとるみたい」
湊はその言葉に、
坂道の光が本当に動いているように感じた。
ロープウェイ乗り場に着くと、
観光客が列を作っていた。
ロープウェイが空へ向かってゆっくりと上がっていく。
「湊くん、ロープウェイはね、
“空の色”を一緒に撮ると綺麗なんよ」
ひよりが言う。
湊は空を見上げた。
薄い雲、
春の光、
ロープウェイの影。
シャッターを切る。
画面には、
空の青とロープウェイの影が
静かに交差していた。
「……空って、こんなに広かったんだ」
悠斗が笑う。
「湊、今日の写真ええぞ。
“街の動き”がちゃんと写っとる」
すずも静かに頷いた。
「……空の光、掴んだね」
湊は思った。
――街も、坂も、空も。
全部、光でできている。
その光を見つけられたことが、
ただ嬉しかった。




