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光のしまなみ、夏のさざなみ  作者: 双鶴


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第15話 道後温泉と、湯けむりの街の光

週末の午後。

写真部の四人は、観光客で賑わう道後温泉駅に降り立った。


駅前には、

坊っちゃん列車のレトロな車両、

土産物屋のカラフルな暖簾、

湯けむりの匂い、

そして観光客の笑い声が混ざり合っていた。


「すごい……人が多い」

湊は思わず呟いた。


ひよりが笑う。


「週末の道後はね、松山で一番にぎやかなんよ。

 “光の量”も“音の量”も、全部多いんよ」


悠斗が肩をすくめる。


「撮るには難しいけど、その分面白いんや」


すずは静かに言った。


「……湯けむり、写るかな」


湊はその言葉に胸が少し高鳴った。



道後温泉本館の前は、

観光客が写真を撮るために列を作っていた。


木造三階建ての建物は、

夕陽を受けて柔らかい金色に染まっている。


「湊くん、ここは“逆光”が綺麗なんよ」

ひよりが言う。


「建物の影と、湯けむりの白が混ざるんよ」


湊はスマホを構えたが――


「……あれ、湯けむりが白く潰れる」


悠斗が覗き込む。


「湯けむりはな、光を当てすぎると消えるんや。

 ちょっと影側から撮ってみ」


すずも指さした。


「……湯けむりは“影の中の白”」


湊は位置を変え、

建物の影を背景にして撮り直した。


今度は――

湯けむりが柔らかく浮かび上がり、

本館の木造の質感が静かに映えた。


「……できた」


ひよりが目を丸くする。


「湊くん、めっちゃ綺麗に撮れとるよ」


悠斗も満足そうに頷いた。


「湯けむりの“立体感”が出とるな」


すずは静かに微笑んだ。


「……湯の匂いまで写りそう」


湊は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。



商店街・道後ハイカラ通りに入ると、

さらに賑わいが増した。


みかんジュースの蛇口、

タルトの試食、

浴衣姿の観光客、

土産物屋の明るい照明。


ひよりが言う。


「ここは“色の洪水”なんよ。

 光が乱反射するけん、写真が賑やかになるんよ」


湊は試しに撮ってみたが――


「……なんか、ごちゃごちゃしてる」


悠斗が笑う。


「街撮りは“主役を決める”んや。

 全部撮ろうとすると、全部消える」


すずが小さく指さした。


「……あれ、主役にしたら?」


湊が見ると、

蛇口からみかんジュースが出る“蛇口みかん”が

観光客に囲まれていた。


湊はその蛇口だけにピントを合わせ、

背景をぼかすように撮った。


蛇口の金属が光を反射し、

みかんジュースの橙色が鮮やかに浮かび上がった。


「……撮れた」


ひよりが嬉しそうに笑う。


「湊くん、街の“主役”見つけるの上手くなったね」


すずも静かに頷いた。


「……色が、綺麗」


悠斗が肩を叩く。


「湊、今日の写真ええぞ。

 道後の“にぎわい”が写っとる」


湊は照れながらも、

胸の奥が温かく満たされていくのを感じた。



夕暮れが近づくと、

道後温泉本館の灯りがともり始めた。


木造の建物が橙色に染まり、

湯けむりがその光を柔らかく反射する。


ひよりが言う。


「道後はね、夜が一番綺麗なんよ。

 光が“湯けむりの中で揺れる”んよ」


すずも静かに呟いた。


「……夜の湯けむり、好き」


悠斗が笑う。


「湊、最後に“夜の道後”撮って帰ろうや」


湊はスマホを構え、

灯りと湯けむりが混ざる瞬間を見つめた。


光が揺れ、

湯けむりが漂い、

観光客の笑い声が遠くで響く。


シャッターを切る。


画面には、

道後温泉の“夜の呼吸”が静かに写っていた。


湊は思った。


――にぎわいの中にも、

 静かな光がある。


その光を見つけられたことが、

ただ嬉しかった。


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