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光のしまなみ、夏のさざなみ  作者: 双鶴


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第12話 大街道・銀天街と、揺れ始める気持ち

日曜日の午後。

写真部の四人は、松山の中心街――大街道にやって来た。


「今日は“街の色”を撮るんよ」

ひよりが嬉しそうに言う。


大街道のアーケードは、

休日の賑わいで満ちていた。


観光客の笑い声、

揚げ物の匂い、

雑貨屋のカラフルな看板、

路面電車のベルの音が遠くから響く。


湊は思わず立ち止まった。


「……すごい。

 こんなに人が多いんだ」


「松山の“動”はここなんよ」

ひよりが笑う。

「光も影も、色も全部混ざっとるんよ」


すずは人の流れをじっと見つめていた。


「……風と違って、街は“音”が写る」


悠斗が湊の肩を軽く叩く。


「湊、街撮るときは“止まっとるもの”を探すんや。

 動いとる人ばっか追うとブレるけん」


ひよりが指さした。


「ほら、あのベンチの影とか。

 街の中の“静けさ”を見つけるんよ」


湊はスマホを構え、

アーケードの天井から落ちる影と、

ベンチに座る老夫婦の姿を撮った。


しかし――


「……あれ、なんか暗い」


ひよりが覗き込む。


「湊くん、街はね、光が上から来るんよ。

 アーケードの照明と外の光が混ざるけん、

 “白と黒の差”が強くなるんよ」


悠斗も言う。


「街撮りは難しいんや。

 でも、湊ならすぐ慣れるわ」


すずは静かに言った。


「……影の形、見て」


湊は影の形を意識して撮り直した。

今度は、

ベンチの影が柔らかく伸び、

老夫婦の姿が静かに浮かび上がった。


「……できた」


ひよりが嬉しそうに笑う。


「湊くん、やっぱり上達早いよ」


その笑顔は、

どこか湊だけに向けられているように見えた。


すずはその様子を見て、

胸が少しだけざわついた。


(……ひより、湊くんのこと……)


自分でも理由が分からない。

ただ、

ひよりが湊を見る目が、

昨日までと少し違う気がした。



銀天街に入ると、

さらに賑わいが増した。


雑貨屋のショーウィンドウ、

カフェの看板、

古着屋のカラフルな服、

そして人、人、人。


ひよりが湊の袖を軽く引いた。


「湊くん、あれ撮ってみよ」

指さした先には、

ガラスに映る夕陽と人の影。


湊はスマホを構えた。


「こういうのはね、

 “映り込み”を使うんよ」

ひよりが湊の横に立ち、

肩が少し触れた。


湊は一瞬だけドキッとした。


すずはその距離を見て、

胸がぎゅっと締めつけられた。


(……なんで、こんな気持ちになるんやろ)


悠斗はそんな二人の様子に気づき、

少しだけ苦笑した。


「ひより、湊に近すぎやろ」


「えっ……あ、あぁ……」

ひよりは顔を赤くして距離を取った。


湊も同じように照れた。


すずはその二人を見て、

胸の奥がざわざわしたまま、

静かにシャッターを切った。


ガラスに映る夕陽と、

人の影と、

揺れる気持ち。


そのすべてが、

すずの写真の中に静かに溶け込んでいた。



帰り道。

大街道のアーケードの灯りが灯り始め、

街は夜の色に変わっていく。


ひよりが湊の横で言った。


「今日ね……湊くんと歩くの、なんか楽しかった」


湊は少し驚き、

でも嬉しそうに微笑んだ。


「俺も。

 松山の街って、こんなに綺麗なんだって思った」


すずはその会話を聞きながら、

胸の奥がまた少しだけざわついた。


(……ひより、湊くんのこと……

 やっぱり……)


でも、

そのざわつきが何なのか、

すず自身まだ分かっていなかった。


大街道の灯りが、

四人の影を長く伸ばしていた。


湊は思った。


――街の光も、人の気持ちも。

 揺れるから、綺麗なんだ。


その揺れの中で、

湊の胸にもまたひとつ、

新しい光が灯っていた。


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