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光のしまなみ、夏のさざなみ  作者: 双鶴


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第11話 みかんの光と、初めての失敗

日曜日の朝。

写真部の四人は、松山市郊外の小さなみかん農園へ向かっていた。


「みかんって、今の時期もう収穫終わっとるんよ」

ひよりが言う。


「でもね、収穫後の農園って、光がすごく綺麗なんよ。

 葉っぱの影とか、枝の形とか」


悠斗が頷く。


「冬の終わりの農園は“静けさ”が写るんや。

 湊の写真に合うと思ってな」


すずは小さく呟いた。


「……みかんの皮、光を通す」


湊はその言葉に胸が少し高鳴った。



農園に着くと、

斜面に広がるみかん畑は、

収穫を終えて静かに風を受けていた。


葉の緑は深く、

ところどころに取り残された小さな実が

朝の光を受けて金色に光っている。


「……きれいだ」


湊はスマホを構え、

逆光で撮ろうとした。


しかし――


「……あれ?」


画面は白く飛び、

みかんの色も形も潰れてしまっていた。


ひよりが覗き込む。


「あー、湊くん。

 逆光はね、角度が難しいんよ。

 光が強すぎると“白飛び”するんよ」


悠斗も言う。


「背景もごちゃごちゃしとるな。

 枝が入りすぎとるけん、主役が分からん」


すずは小さく指さした。


「……葉っぱの影、使うといい」


湊は少し落ち込んだ。


「そっか……なんか、うまく撮れない」


ひよりが優しく笑った。


「大丈夫。

 みかんは“光の果物”なんよ。

 難しいけど、その分綺麗なんよ」


悠斗が湊の肩を軽く叩く。


「失敗するのは当たり前や。

 俺らも最初は全部白飛びしとったわ」


すずも静かに言った。


「……失敗、悪くない。

 光を知るための一歩」


湊は深呼吸し、

葉の影を使って光を少し弱め、

角度を変えて撮ってみた。


今度は――

みかんの皮が半透明に輝き、

葉の影が柔らかく重なっていた。


「……撮れた」


ひよりが目を丸くする。


「湊くん、すごいよ。

 “光の通り道”が写っとる」


悠斗も満足そうに頷いた。


「お、ええやん。

 さっきより断然いい」


すずは小さく微笑んだ。


「……光、やっと掴んだね」


湊は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。



農園を出た帰り道、

ひよりが果物屋を指さした。


「せっかくやし、みかん買って帰ろ!」


店先には、

愛媛ならではの柑橘が色鮮やかに並んでいた。


甘平かんぺいに、せとか、伊予柑……

 愛媛は“柑橘王国”なんよ」

ひよりが誇らしげに言う。


果物屋のおばちゃんが笑顔で声をかける。


「あら、ひよりちゃんに悠斗くん。

 今日はお友達も一緒なんやねぇ」


ひよりが湊を紹介する。


「この子、写真部の新入部員なんよ。

 東京から来たんよ」


湊は丁寧に頭を下げた。


「藤沢湊です。よろしくお願いします」


「まぁ! 東京から!

 ほんなら愛媛の味、しっかり覚えて帰らなねぇ」


湊は果物の並びを撮ろうとしたが――

また失敗した。


「……なんか、色が濁る」


悠斗がアドバイスする。


「湊、柑橘は“影”を入れると色が締まるんよ。

 全部光に当てると、ただ明るいだけになるけん」


ひよりも言う。


「あとね、みかんは“丸い影”が可愛いんよ。

 影も一緒に撮ると映えるんよ」


すずは静かに指さした。


「……せとかは“柑橘の大トロ”。

 断面、綺麗」


湊は影を意識して撮り直した。


今度は、

甘平の濃い橙色がしっかり写り、

丸い影が柔らかく落ちていた。


「……できた」


ひよりが嬉しそうに笑う。


「湊くん、上達早いよ」



部室に戻ると、

夕陽が窓から差し込み、

机の上のみかんを金色に照らしていた。


ひよりが甘平を割ると、

果汁がきらりと光った。


「湊くん、これ撮ってみ?」


湊は慎重に角度を調整し、

シャッターを切った。


画面には、

果汁の粒が宝石のように輝き、

断面が夕陽を受けて金色に染まっていた。


「……撮れた!」


悠斗が覗き込み、

満足そうに頷いた。


「おお、ええやん。

 湊、今日は成長したな」


ひよりも微笑む。


「湊くん、みかんの光、掴んだね」


すずは静かに言った。


「……光の味、写っとる」


湊は甘平を一房口に入れた。


甘さがふわっと広がり、

香りが鼻に抜ける。


「……うまっ」


ひよりが嬉しそうに笑う。


「でしょ?

 これが愛媛のみかんなんよ」


湊は思った。


――失敗して、教えてもらって、

 やっと掴んだ光がある。


みかんの香りが部室に広がる中、

湊の胸にはまたひとつ、

新しい光が灯っていた。


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