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光のしまなみ、夏のさざなみ  作者: 双鶴


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第10話 石手寺と、影の中の光

週末の朝、写真部の四人は道後温泉駅で待ち合わせた。

今日はすずの提案で「石手寺」を撮りに行く。


「石手寺って、どんなところ?」

湊が尋ねると、ひよりが嬉しそうに答えた。


「国宝のお寺なんよ。

 弘法大師ゆかりで、四国八十八ヶ所の五十一番札所。

 歴史も深いし、自然も綺麗なんよ」


悠斗が補足する。


「影が綺麗なんや。

 木々が多いけん、光が細かく揺れるんよ。

 湊の“風の写真”にも合うと思う」


すずは静かに言った。


「……湿度も、写る」


湊はその言葉に胸が少し高鳴った。



石手寺の山門に近づくと、

空気がひんやりと変わった。


巨大な仁王門は国宝で、

木の色が深く、

長い年月を吸い込んだような重みがあった。


「……すごい」


湊は思わず立ち止まった。


門の奥には、

苔むした石畳、

ゆらゆら揺れる木漏れ日、

線香の香り、

そして静かな湿度。


ひよりが微笑む。


「ここね、松山の中でも“時間が止まる場所”なんよ」


すずは門の柱にそっと触れた。


「……木の匂い、好き」


悠斗が湊の肩を軽く叩く。


「湊、ここは“影”を撮るんや。

 光より影の方が、この寺は語るけん」


湊はスマホを構え、

石畳に落ちる木漏れ日を見つめた。


風が吹くたびに、

光と影が細かく揺れ、

まるで水面のように波打つ。


「……綺麗だ」


「湊くん、こういうときはね」

ひよりが横から覗き込みながら言う。

「影の“境目”を撮るんよ。

 光と影が混ざるところが一番綺麗なんよ」


すずも小さく頷く。


「……影の中に、光がある」


湊はその言葉を胸に刻み、

シャッターを切った。


画面には、

石畳の上に揺れる光の模様が柔らかく滲み、

影の深さが静かに浮かび上がっていた。


「……撮れた」


悠斗が覗き込み、

満足そうに頷いた。


「湊、お前ほんまに初心者か?

 影の“呼吸”が写っとるやん」


ひよりも目を丸くする。


「湊くん、すごいよ。

 石手寺の空気がそのまま写っとる」


すずは湊の写真を見て、

静かに微笑んだ。


「……湿度、写っとる」


湊は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。



境内を歩くと、

石段の隙間から小さな花が咲いていた。

苔の緑が深く、

木々の影がゆっくりと揺れている。


「ここ、好きなんよ」

ひよりが指さしたのは、

小さな五輪塔が並ぶ一角だった。


「石手寺ってね、

 “生と死の間にある静けさ”が綺麗なんよ。

 なんか……落ち着く」


湊はその言葉に、

母のことをふと思い出した。


――きれいだと思ったらね、ちゃんと見つめてあげるんよ。


湊は五輪塔の影を見つめ、

そっとシャッターを切った。


影の中に、

柔らかい光がひとすじ差し込んでいた。


「……湊くん」

ひよりが横で微笑む。

「その写真、なんか……優しいね」


悠斗が言う。


「湊の写真って、

 “静かに寄り添う”感じがあるんよな」


すずも小さく呟いた。


「……光が、優しい」


湊は照れながらも、

胸の奥が温かく満たされていくのを感じた。


石手寺の鐘の音が、

遠くでゆっくりと響いた。


その音は、

四人の時間を静かに包み込むように

境内に溶けていった。


湊は思った。


――この街の光も、影も、風も。

 全部、もっと深く見つめたい。


石手寺の静けさの中で、

湊の心にまたひとつ、

新しい光が灯った。


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