表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『拳ひとつで魔法を黙らせる 〜七男坊の身体強化は、世界の理をブチ抜く〜』  作者: 沼口ちるの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/9

第6話:牙を剥く「最弱」

領内演習当日。バルカ・バトラー領の広大な演習場には、数百人の私兵騎士と、それを迎え撃つ子爵家の子息たちが集まっていた。


だが、今日の配置は異例だった。 長男カイン、次男レグルス、三男ジーク、そして姉妹たちが陣取る「子嗣連合」に対し、たった一人で対峙するのは、末っ子のアルス。


「……父上も、冗談が過ぎる。アルス一人を、我ら全員で相手にしろだと?」


カインが不快そうに木剣を構える。彼の周囲には、緻密に練られた防御陣形が騎士たちによって構築されていた。 一方、シエラは戦場の端で、異様な熱気を孕んだ瞳で俺を見つめていた。彼女は今日、あえて魔法を使わず、俺とのスパーリングで学んだ「身体強化」の感覚を必死に己の肉体へ馴染ませようとしている。


「おい、アルス。泣いて謝るなら今のうちだぜ!」


ジークが野次を飛ばすが、俺の耳には届かない。 俺の視界にあるのは、リングの中央、獲物たちの急所だけだ。


「——演習開始ッ!!」


父ガロンの咆哮とともに、騎士たちが一斉に突き進む。


「……フゥッ」


鋭い呼気。 俺は身体強化を脚部に集中させ、一気に加速した。


「遅い!」


先陣を切った騎士の突きを、首をわずかに傾けるだけで回避。そのまま、最短距離のジャブを顎に叩き込む。


「ぐはっ!?」


一撃。 魔法の鎧を纏わぬ一般騎士など、プロボクサーの拳の敵ではない。 俺は止まらない。流れるようなフットワークで、次々と騎士たちの防衛網を「内側」から崩していく。


「馬鹿な……!? 奴、一人で一隊を壊滅させる気か!」


レグルスが焦り、強引に『真空破』を放つ。 だが、今の俺にはその予備動作が、スローモーションのように見えていた。


(サイドステップ。角度は45度。……そこだ!)


俺はレグルスの死角へ回り込み、その懐へと滑り込む。


「レグルス兄上。——これが、俺の第2ラウンドだ」


「なっ……!?」


レグルスが障壁を展開しようとするより早く、俺の左ボディーが彼の脇腹に食い込んだ。


「が、は…………っ」


『鎧』を貫通する衝撃。 レグルスは白目を剥き、その場に崩れ落ちた。 演習場が静まり返る。 子爵家最強の一角が、たった一発、しかも魔法を放たぬ「落ちこぼれ」の拳に沈んだのだ。


「……シエラ。お前はどうする?」


俺は拳の血を払い、戦場の端で佇む姉に視線を向けた。 シエラは震えていた。 それは恐怖ではない。 自分の中に芽生えた「身体強化」という新たな可能性と、それを体現する弟への、狂おしいほどの対抗心だ。


「……ふふ、あはははは! 面白いわ、アルス! あなたを倒すのは、魔法じゃない。私が今覚えた、あなたの『その力』よ!」


シエラが、これまでの優雅な立ち振る舞いを捨て、猛獣のように地を蹴った。 天才が、自らの天賦(魔法)を捨てて、泥臭い「肉体の戦い」に身を投じた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ