第5話:螺旋の果て、序列の逆転
「——はぁ、はぁ……ッ!」
森の広場は、もはや元の形を留めていなかった。 シエラ姉様が放った極大魔法の跡がクレーターとなり、俺の足元はボロボロに崩れている。 だが、俺の瞳は死んでいない。それどころか、前世のタイトルマッチでも感じたことのない「ゾーン」に入っていた。
「信じられないわ……。今の火雷の複合魔法を、ただの『フットワーク』でいなすなんて。アルス、あなた本当に人間?」
シエラ姉様は笑っていたが、その額には一筋の汗が流れている。 彼女の全属性魔法を、俺はボクシングの防御技術——「ショルダーブロック」と「ウィービング」、そして身体強化による細胞単位の反応速度で、すべて「急所」から逸らし続けていた。
「姉貴……次で、終わりにするぜ」
俺は魔力のすべてを右拳に、それも指先ひとつ分の点に集約した。 内向型の魔力を、爆発寸前まで圧縮し、心臓の鼓動に合わせて回転を加える。
「いいわ。私の『絶対障壁』を貫けるなら——やってみなさい!」
七色の魔力が、シエラの周囲で物理的な「盾」となって結晶化する。カイン兄様やレグルス兄様なら、触れることすら叶わず消し飛ぶ究極の防御魔法。
俺は踏み込んだ。 地面が砕け、爆音とともに俺の体が光の速さへと近づく。
「おおおおおおお!!」
身体強化・極——『螺旋鉄拳』!
放たれた右ストレートは、シエラの障壁に接触した瞬間、凄まじい火花を散らした。 だが、止まらない。 俺の拳は魔力の盾を「貫通」するのではない。螺旋の回転が障壁の魔力循環を逆流させ、一点に穴を空けて「こじ開けた」のだ。
パリンッ!!
硝子が割れるような音が響き、俺の拳がシエラの鼻先数ミリで静止した。 拳から放たれた衝撃波だけで、彼女の背後の木々が何本もなぎ倒される。
「…………私の負けね」
シエラ姉様がポツリと呟いた。 その瞬間、森の奥から重厚な拍手が聞こえてきた。
「見事だ、アルス」
木々の影から現れたのは、父上——ガロン・バトラーだった。 その表情には、いつもの厳格さだけでなく、隠しきれない戦慄と期待が混じっていた。
「魔法を放てぬ劣等種と切り捨てていたが……まさか、魔力を内に留めることで、これほどの『破壊』を生むとは。カインもレグルスも、今の貴様の一撃を受ければ即死していた。認めよう。現在、この家でシエラに次ぐ実力を持つのは、お前だ」
父上の宣言。それは、バルカ・バトラー家の序列が、6歳の「無能」によって塗り替えられた瞬間だった。
「再来月の領内演習。……アルス、お前は『家臣側の代表』として出ろ。他の兄弟全員を、その拳で教育してやるがいい」
「……御意」
俺は静かに膝をついた。 右腕は熱を持ち、感覚は麻痺している。だが、心は澄み渡っていた。 ジーク、レグルス、カイン。 俺を見下していた「天才」たちの顔が、演習の日にどう歪むか。今から楽しみで仕方がなかった。




