第4話:一点突破の螺旋(コークスクリュー)
シエラ姉様とのスパーリングから数日。俺の体は痣だらけだが、脳内では一つの理論が完成に近づいていた。
(魔法の『鎧』は、面で受ける衝撃には強い。なら、点を一点に絞り、さらに回転を加えて、障壁の魔力循環そのものをかき乱せばどうだ……?)
俺は森の奥、ひときわ硬い「鋼鉄樹」の前に立っていた。 普通に殴れば、こちらの拳が砕けるだけの代物だ。
「……ふぅ」
深呼吸。身体強化を開始する。 だが、これまでのように全身を覆うことはしない。魔力をすべて「右肩から拳の先」までの、一筋のラインに絞り込む。
(内向型の魔力……外に出せないなら、筋肉の隙間に、骨の芯に、極限まで圧縮して押し込め!)
俺は、前世で見た「伝説のボクサー」の映像を思い出す。 足首の返し、膝の連動、腰の回転。そのエネルギーが肩を通り、腕を伝い、最後に拳へと集約される。
「——ここだ!!」
放たれた右ストレート。 インパクトの直前、俺は前世の技術に、この世界の「身体強化」による爆発的な捻りを加えた。
拳を、内側へ鋭く。 コークスクリュー・ブロー。
さらに、拳が樹に触れた瞬間、内側に溜め込んだ魔力を一点で解放する!
ギィィィィンッ!!!
嫌な金属音が響き、鋼鉄樹の表面が、まるでドリルで抉られたように螺旋状に弾け飛んだ。 衝撃は表面に留まらず、樹の内部を真っ向から貫通し、裏側の皮を突き破る。
「……はぁ、はぁ……っ!」
右腕が熱い。熱を帯びて、血管が浮き出ている。 だが、確信した。これなら、レグルス兄上の『鎧』を無視して、その奥にある「顎」を揺らせる。
「……今の、何かしら」
頭上から、鈴を転がすような、だが氷のように冷たい声。 見上げると、隣の樹の枝にシエラ姉様が座っていた。その瞳は、獲物を見つけた猛獣のそれよりも、さらに深く、暗く、純粋な「狂気」に近い好奇心に染まっている。
「魔法を外に放たず、すべて回転の推進力に変えた……。アルス、あなた、とんでもないことを考えたわね」
シエラ姉様が音もなく飛び降りる。 彼女の周囲の空気が、これまでにないほど激しく波打っていた。
「ねえ、そのパンチ……私に打ってみなさい。障壁を最大出力にして待っててあげる」
「……本気か? 姉貴。死んでも知らないぜ」
「ふふ、殺せるものなら殺してみなさい。ガロン父上が見惚れるほどの『絶望』を、私に味わせてくれるんでしょう?」
彼女は一切の構えをとらない。だが、その周囲には七色の魔力が幾重にも重なり、物理法則を拒絶する絶対領域が形成されていく。
俺は再び、拳を固める。 前世、速水鉄拳がリングで磨き続けた「一撃」。 それに、この世界の不条理なエネルギーを注ぎ込む。
「いくぜ……第2ラウンドだ」
俺の小さな体が、爆発的な踏み込みとともに、虹色の光の壁へと突っ込んでいった。




