5話 八千代の覚悟
「う、ううん…あっ!」
女性は目を覚ました。というより、飛び起きたに近い。
「其方はまだ生きておる。私は八千代、訳あって家名は名乗らんが、其方の名はなんと言う?」
「わ、私はマーシャ・クワイエット。クワイエット家の一人娘です。」
「すまないが、私はこの世に疎い。名前を話してもわからない。」
「家名を持っているのなら貴族様では?」
「まあ色々ある。其方の知ってる人中にも風来坊のような人はおらんか?世間に疎い人が。」
「いますが。いえ、助けて頂いたのに疑ってばかりで申し訳ありません。ずっと混乱していたので。」
「無理もない、あの状態では混乱しない方が無理もない。」
「しかし、色々聞きたいことがあるんだが、とりあえず一つ。」
八千代は木の幹にふんじばった男どもを指差し。
「こやつらの事だな。」
「な、なぜ生きているのですか!?」
「殺してないからな。加減した。」
「も、もしかして。私のことを疑っているのですか?」
「いや、そういうことではない。この世界の法がわからないのだ、後で殺したらダメだと言われるのも面倒だ。」
あっけらかんと八千代はいう。マーシャは戦闘に関してはからっきしではあるが、騎士団や、父などから話を聞いたことがある。
(捕えるのは、殺す場合の数倍難しい。)
八千代様は、途方もなく強いことがわかった。それに精神も強い、戦闘も、赤子をひねるように倒していた。
それに善悪と割り切りもできる、この場で断罪が必要なら、この男どもを簡単に切れるとマーシャは感じていた。
「法ですか?それならば、野盗に貴族を襲ったのです。その場で切る、連れて帰るも、処刑は確実でしょう。」
「ふむふむ。しっかり厳しいようだな。しかし此奴らには少し話を聞いておきたいが少し我慢できるか?」
「それは仕方ありません。貴方の後ろにいて良いですか?」
「もちろんだ。じゃあ起きろ!」
4人の腹を強く蹴り、吐瀉物を出しながら覚醒した。
「なんだ、お前」
「外せよ、殺すぞ」
「お前らには私の質問のみ、答えろ。それ以外は許さん。」
「なんだ…と。」
「ふざけ…るな…」
次の瞬間には2人の首か、皮一枚残して切られた。痛みすら感じず。夢のように死んでいった。
「まだ質問はしていないんだ。私が人を殺めれないと思ったのか?」
残りの男は、死を覚悟して震えていた。
マーシャは驚いた。人を殺せないと人がいるというのは聞いたことがあった。特に強すぎる人がその傾向があると。逆に人殺しが好きな人種が好きというのもいると、
しかし、八千代は全く殺人は得意ではない。しかし太刀筋に全くブレがない。
仕事人のような、その佇まいに、感銘を受けた。
「お前らは貴族の娘を攫って何をしたい。」
「そ…それは」
「ダメダメ。こういうことは話したらダメって知らないの?」
黒いローブを着た男が、木の上に立っていた。
「貴様は誰だ。」
「話すと思う?お馬鹿ちゃん。」
男は切るしかない。八千代は飛び上がり、男に切り掛かった。
「シャドー。」
その切先は男をすり抜け、男は幻のように消えた。
「面妖すぎる技だな。どこにいった。」
「八千代さん!捕らえた男の人たちが。」
先ほどの男たちに目を向けると、先ほどの男が全員死んでいた。
「危ない危ない。情報はこれで得られないね?」
「問題ない、貴様を倒せば済む話だ。」
「ふーん?」
「なんか腹立つね、君。シャドウバインド。」
「うぐ!」
地面から黒い手が伸びてきた。八千代に絡みつき、行動を封じていた。
「そして終わりだよ。ダークボール!!」
男の道の言葉と共に、黒い、丸い大きな球がこちらへ来た。
大玉転がしのような大きさだが、なぜだか八千代にはこの玉を侮るなかれと。核心に似た何かを感じてきた。
「喝!!!!」
凄まじい音圧と共に、ダークボールと、それを放った男ごと吹き飛ばされた。
「ば、化け物め。」
「貴様には聞きたいことがある。避ければ死ぬぞ。」
「くそ。転移」
かなりの距離吹き飛んだ男へ近づいたが、男が右手に持った小さな宝石を翳すと。男は消えた。
瞬間的に男の肩へ投げた木刀と共に。
「な、なんなのだ。彼奴は。面妖なものばかりを使うな。」
男は洞窟の中へ転移していた。ここは八千代のいた場所から、遠く、遠く離れており。日本からアメリカほどである。
その距離を一瞬で解決したのが、右手に持っていた、宝石。名は転移石。
今は役目を終えて砂になったが。
男は中央の大きな椅子に座ると。
「く、くそ。いてー。痛すぎる。なんだよあの化け物、聞いてねーぞ。」
肩に突き刺さった木の剣は、すぐに握りつぶした。一般の木であるのは容易に想像ついた。
しかし、あの時の剣は聖剣かと思うほどの強さを誇っていた。
「やれやれ。あなたが失敗するとはね?」
扉を女性が開けながら話しかけた。
「うるさい。」
「あんだけ簡単だって話していたのに?どうしてかしら?」
「お前には関係ない。」
「関係あるわ?あなたのしょうもないミスでこちらも無能と思われるかもしれないわ。」
「お前。殺されたいか?」
「勝ったことはあって?
「やめろ」 ここにはいない、しかし重たく。そして恐ろしい声が部屋に響いた。
2人はすぐさま、傅き。
「「申し訳ありません。」」
「キース、貴様には失望した。あの娘を必ずお前ならここへ持ってくるはず、そう思っていたのだがな。」
「謝罪のしようがございません。しかし」
「しかしだと?これ以上恥を上塗りするつもりか?まさか道中でドラゴンにあったわけでもあるまいに」
「ドラゴンというには、名が小さすぎます。まるで初めて貴方様に相対した時のような、そのような絶望の相手がいたのです。」
「なんだと。名はあるのか?」
「名前だけは。八千代といい、木刀を…」
「八千代!?八千代だと?」
謎の男はしばし無言になる。そして
「ふむ。キース、貴様のミスは不問とする。」
「ははー。」
「その代わり、その女の事を調べろ。あくまで直接ではなく。じっくりとだ。」
「わかりました。」
「では私は少し眠る。キース、役目を果たせ。」
重苦しい重圧が消え。2人だけになった。
「なんなんだ。八千代というやつはそれほどのものなのか。」
「何よ!負けた貴方には勅命で、私はまた小遣い稼ぎ!釈然としない!」
女は怒り、そのまま扉を勢いよく閉めてどこかへ行った。
「八千代。格好も彼の方にそっくりだったんだ。どういうことだ。」
頭を振り、勅命のみを遂行すると決め、キースは闇に消えた。




