2話 慟哭、そして戦い
「うわぁぁぁぁ!!!!」
八千代は泣き叫んだ。大いに泣いた。それもそうだろう。母の死に近衛家の対応、そして父のあまりにも薄情な対応。
八千代の感情も大いに揺れた。叫び声で当たりの木々は大きく揺れ、森の全てに八千代の声が響き渡った。
人間の声帯でそんな事はできない。しかし近衛家には特殊な技があり、超常と呼ばれるものがあった。
異世界で言うところの魔力に近いものであり、この力を使う事で爆発的に攻撃力を上げたり、それこそ空中を歩くことすら容易であった。
しかし、八千代は歴代でも最高量の超常を持っており、軽く使うだけでも人を殺めかねない。
そのため母に禁止令を出された。後にも先にも母が止めたのはこれだけであり、八千代も母の頼みは叶えたいため使っていなかった。
しかし感情によっても使ってしまう、そのため声に乗って当たり一面に超常の力が広がった。
そのまま拳に力を溜め。思い切り近くの木をぶん殴る。大きな穴を開け、その後ろの木すらも貫通した。
ひとしきり泣き叫び。ようやく泣き止んだ頃には当たりの木は禿げていた。
「ここはどこだ?日本…ではないな?」
近くの折れた木を触り、日本には存在していない木である事は分かった。
海外の木も多少走っているが、それですらない。
ここはどこだろう、周りは私がやってしまったのか?感情に揺さぶられてしまうなど。反省せねば。
その場であぐらをかいて、しばらく精神統一をした。
15分ほど集中したのち、大きく息を吐いて立ち上がった。
「よし。森を抜ければ大体の場所はわかるかもしれない。」
壊した木の一つを手刀で削り、形だけの木刀ができた。それを片手にぶんぶん振り回して歩く。
先ほどのでかい声により、動物達はこちらを怖がり近づくものは皆無であった。
しかし、何やら興味本位で来たものも居た。
「ゴブ」
「な、なんだ此奴は。人間ではないのか?」
緑色の小さな二足歩行の生物。近しいもので言うならば、絵画で見た餓鬼だろうか?
お腹がでっぷりと太り、腕や足は子供の様なちぐはぐさ。まだ距離はあるはずなのに、鼻腔にとんでもない悪臭が降りかかる。
「おい。お前は誰だ?日本語が伝わるか?」
「ゴブ!ゴブゴブ」
こちらの言葉をまるで無視したかの様に、下卑た目線でこちらに近づきつつある。
「やめておけ。お前如きでは私に触れることすら叶わんぞ?それとも何か?そう言う挨拶と言うやつか?」
そうならばこちらは相手の出方を伺うとしよう。母も相手には尊重を、人の良し悪しは言動に出るものだと、口酸っぱく言われていたのを思い出した。
初対面では最悪だが、ここから友人になる可能性は0ではないのだ。
さて、どう来るのだろうか。外国ではハグで挨拶をするらしい。ここもそう言う場所なのだろうか?
「ゴブウウウ!!!」
こちらに飛びついてきた。にやけた顔でまるで襲いにきている様だった。
「いい加減にせんか!!無礼者!!」
餓鬼を木刀で真っ二つに両断した。
「ああ、しまった。つい悪鬼だと思い、屠ってしまった。」
心の中で黙祷をし、その場を急いで離れた。
生物を殺したじめっとした居心地の悪さもあったが。それよりなにより
「ほ、本当に臭い。もうやだ。」
悪臭から逃げるためであった。
しばしの歩きの後、どっと疲れが八千代に来た。
やはり生物を屠るのは多少堪える。人の言葉を話さないため、まるで正当防衛の様な形での撃退のため。
頭の中で行動が正当であることを深く思い込むことで、ようやくゴクリと飲み込めた。
しかし飲み込めないことがあった。あれはなんだったのだろう?
未知の植物、未知の動物、なんだか空気すら未知の気がしてくるもので、異なった世界に来た。
もしかして、あの代々の近衛家の人たちは魔法陣を封じているのでは無く。その先の異世界に行っているのかもしれない。
そうだ、そうに違いない。ここは日本とは違った世界なのだ。
つまりは母はまだこの世界にいる可能性があるのだ。母は武術は嫌いで戦闘など大の嫌いだった。
しかし、それイコール戦闘能力が低いわけではない。特に槍を使った槍術に関して歴代最高最強の地位を確実なものにしていた。
八千代は母の槍術の鋭さの中に確かな美しさを感じていた。
あの母がこの程度の餓鬼にやられるとは到底考えられない。使用人ですら倒せそうであった。
日本へ帰る気はさらさらないが、この世での目標は無かったが。母を探すことを第一の目標にした。
そして、第二の目的として、このふつふつと膨れ上がる力をぶつけたい。
つまり本気の戦いをしたいのだ。昔からずっと武術と、戦いと共にあった。
先ほどの屠った居心地の悪さから、もっと戦いたいという真逆な考えになった。
近衛家として生まれ、まともな教育すら受けず、ひたすら大きなストレスの中に闘争を求めて居たのだ。歳こそ18歳だが、中学生、敢えて言うなら全能感がある厨二病と呼ばれる症状になっている。
ハイになった八千代を止めるものは居ない。厳密には母がいたのだが。今は居ない。
「さて!誰でも来い!相手してやるぞ!」
木刀をビュンビュン振り回しながら、森の奥へ進んで行った。




