4話 私は"元"殺し屋、今はただの女の子
〜くまさん(?)視点〜
「アハハッ!!!!始めよっか!!!!!」
小柄な少女が私の目の前で小さな刀をそっと構えて、そう言って笑った。さっきまでの大人しくてほとんど表情が顔に出てこない彼女と違って今の彼女は内心が剥き出し。
かつて戦争をしてた者共はみな苦虫を噛み潰したような表情…というらしいな。なんとも嫌そうな顔をしていた。戦いを恐れ、それでも戦いを続けていた。
だが目の前にいる少女は違った。根本から彼らとは違う。基本的には平和主義で自分勝手、でも違う。売られた喧嘩は買う。自らは仕掛けないが相手からの誘いには乗る。現にそうなった。
そして何よりも彼女の表情。怯えもせず、怖がりもしない。顔に浮かぶのは狂気的なまでの笑み。戦いを心の底から楽しもうとしている…いや、楽しんでいる。
彼女の狂気とともに殺気が辺りを埋め尽くす。そしてその殺気と共に彼女から強大な魔力が漏れ出てくる。こんな人間は今まで見たことがない!!…今まで見た人間の中でも圧倒的に濃く、鋭い魔力。
そこには近づくことすら許されない彼女の絶対領域が展開されていた。
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「ねえねえ!!もっと私を楽しませてよ!!!」
もう奴の武器であろう爪は使えない。何があろうと私の勝ちだ。
「(降参だ…。殺したければ殺せ…!)」
頭を地面に近づけていわば土下座のようなポーズをとったくまさん。勝敗は決したので素直に刀を鞘に納めると、くまさんは驚いた顔をした。
「(なぜだ…、負けたはずの私をなぜ殺さない!)」
お互い血も出ていない。私が刀で斬ったのは私に向かって振るわれた爪だけ。やってることは爪切りと同じなんだよね。
「言ったでしょ…。悪いこと…やめた」
そう、私は"元"殺し屋。今はただ異世界に来てしまったただの女の子。殺しからももう足は洗った。もちろん生きるために生き物を殺してしまうこともあるがそれも必要最低限。もうこりごりだ。殺しとか命令遵守とか、…めんどくさい。
「ねえくまさん。あなたは人間を知らない…」
「(???)」
「だから、一緒に旅……する?」
「(は???)」
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「名前はベル……どう?」
「(ベルか…いいな!)」
いろいろお話しをしながら森を進んでいく。くまさん——「ベル」はクマと狼の中間みたいな存在でみたい。違いはとにかく大きいことと念力が少しだけ使えること。念力が使えると言っても他人と念波でお話しできたり透視ができることくらいらしい。
あとすごい怖いけど優しい女の子。名前はないらしく人間からは種族名で呼ばれることが普通らしいけど友達で旅仲間なのに種族呼びは嫌だということであだ名?というか名前をつけてあげた。
ベルの背中に揺られながら森を進んでいく。彼女は几帳面らしくて毛並みが綺麗だしふわふわ、おまけにとても清潔だ。
久しぶりのベッド(?)で生きている喜びと新しいお友達をゲットした私は鼻歌を歌いながら今日も旅をする。
とはいっても毎日何かあるわけもなく今日は数キロくらい進んだあたりで日が沈み出したので一夜を明かす場所を探す旅をしていた。
「それにしても、広い」
「(そうだな、今日はこの辺りで休もう)」
ベルも入れるくらい大きな洞窟の中にベルから降りて中に入っていく。
また椅子の上に腰掛けようか悩んだけどベルが丸まっていたのでダイブしてみた。———ふかふかだあ…。
「(お主、あの殺気と魔力は一体なんなんだ?あんな魔力も殺気も初めて感じたことぞ)」
「……??そんなに?」
「(あんなの初めてみたぞ!いくらなんでも規格外すぎる!)」
「(お主は一体何者なんだ?)」
これから一緒に旅をする仲だ。これは話しとくべきだろう。
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私は殺し屋の組織で育った。産まれた直後から身寄りのなかった自分が生きるための道、それが組織だった。
まあ、…そんな組織で育ったわけだから必然的に私は殺し屋になった。それはもう大暴れだったらしい。いつからか私は勝手に『機械仕掛けの女王』とかダサい名前で勝手に呼ばれてそれなりに有名だったらしい。そんな私は姉と再会したことで殺し屋から足を洗った。姉と一緒に暮らすことを優先したからだ。仕方がなかったとは言えるが罪が消えることはない。ただ、殺しとは無縁な生活。姉からも人を傷つけるのは禁止と言われたので完全に離れた…とはいかなかったが数年もすればただの女の子となった。それからはいろんなことをして生きた。世界中を旅したり、趣味であった武器のコレクションをちゃんとしてみたり、猫とか鳥とかを飼ってみたり…、あとは…写真家の義兄とお互いが旅した場所の写真を交換してみたり。たくさんのことをして生きたけどどんな時も過去のことを忘れたことはない。反省してる、といっても誰も信じはしないだろうけど…。ただ世界を旅しながらいろんなこともした。慈善活動を身一つでしてみたり、貧しい子供に生きる術を教えてみたり。何か人のためになりそうなこともやってきた。そんな私も死ぬ時は来る。そして今に至るのだ…。
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「長くはなったけど…私は結局今はただこの地を放浪してるただの女の子。それだけ…」
「(まあ、今のお主は人柄は良さそうだしな…。だがあの狂気的な笑みに関してはなんなのだ?)」
「お姉ちゃんから言われたんだけど、私ってその…戦いになると性格が変わっちゃうらしいの…」
「(にしては変わりすぎだがな……)」
実際私は戦いの時はかなり本能的になっているからどんな状態なのかわからないけど多分そういうことなんだと思う。——やっぱり性格変わっちゃってるのか、私…。
「気をつける…」
そういってベッド代わりとしてベルのふかふかの毛にダイブする。やっぱりふかふかで、すごい気持ちいい