01.不適合者と神の遺産
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「ーー以上で、今日の講義は終了だ。各自、放課後の自主鍛錬を怠らないように。特に来週に迫った実技評価試験、赤点を取った者は容赦なく補習だからな」
教師の退屈な声が、俺の意識を現実へと引き戻した。
周囲の生徒たちが安堵のため息を漏らしながら立ち上がる中、俺ーー神凪湊は、窓の外に広がる青空をぼんやりと眺めていた。
ここは、エリート適合者育成機関《神遺学園》。
数十年前、世界の各地に突如として出現した神話の武具ーー神の遺産。それに選ばれ、異能の力を授かった者だけが、《適合者》としてこの学園の門をくぐることが許される。
適合者の使命はただ一つ。遺産の力に引き寄せられるように現れる異形の怪物、神話喰いを討伐すること。
彼らは現代兵器が一切通用しない脅威であり、人類の未来は、俺たち適合者の双肩にかかっている……らしい。
「おい、湊。また聞いてなかったのか?実技評価試験、どうするんだよ」
声をかけてきたのは、数少ない友人の一人、高千穂だ。
彼の右手には、炎を操る力を秘めた『炎神の小手』が鈍い輝きを放っている。ランクこそ平均的なCランクだが、それでも立派な神の遺産だ。
「どうするって言われてもな……。俺の能力じゃ、やれることなんてたかが知れてる」
俺は自嘲気味に呟きながら、自分の右手の甲に目をやった。
そこには、何の変哲もない、ただの黒い紋様が浮かんでいるだけ。これこそが、俺に与えられた神の遺産。
その名は、《模倣》。
能力は、他人の遺産の力を「劣化コピー」するというもの。
例えば、高千穂の『炎神の小手』を模倣すれば、俺も炎を出せる。だが、その威力は本家の十分の一にも満たない、ライターの火ほどの貧弱さだ。当然、神話喰いと戦うことなどできはしない。
「またそんなこと言って。お前の《模倣》だって、使い方次第じゃ……」
「気休めはよせよ」
高千穂の言葉を、俺は冷たく遮った。
使い方次第?そんなことは、この学園に入ってから嫌というほど試してきた。
だが、結果はいつも同じ。どんなに強力な遺産を模倣しようと、俺が使えるのはその力のほんの上澄みだけ。
「見ろよ、神凪だぜ」
「ハズレ遺産の《模倣》……。よく学園にいられるよな」
「実技は万年最下位。筆記だけでしがみついてる落ちこぼれだろ」
教室の後方から聞こえてくる嘲笑に、俺は歯を食いしばった。
そうだ。俺は落ちこぼれ。不適合者。
適合者でありながら、戦う力を持たない半端者。それが、この神遺学園における俺の評価だった。
「……悪い、高千穂。俺、先に帰るわ」
「あ、おい、湊!」
友人の制止を振り切り、俺は逃げるように教室を後にした。
廊下を歩けば、誰もが羨望の眼差しを向けるエリートたちの姿が目に入る。
彼らと俺とでは、住む世界が違う。
彼らは神々に選ばれた英雄で、俺は、その英雄譚の背景にすらなれないモブキャラだ。
中庭を抜け、寮へと続く道を歩きながら、俺は再び右手の甲を見つめる。
(本当に、ただのハズレ能力なのか……?)
何度繰り返したか分からない自問。
もし、この力に何か、まだ俺が気づいていない秘密があるとしたらーー。
そんな都合のいい妄想に浸りかけた、その時だった。
「ーーキャアッ!」
悲鳴は、自主鍛錬に使われる第一演習場の方から聞こえてきた。
何事かと足を向けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
本来、厳重な結界で守られているはずの演習場に、空間の亀裂が走り、そこから禍々しい気配を放つ異形の影が這い出てきていたのだ。
神話喰い。
しかも、その巨体とプレッシャーは、俺が教科書で見たどんな雑魚ともレベルが違っていた。
「な、なんでこんなところに……!警報は!?」
「くそっ、結界が破られてる!」
演習場にいた数人の生徒が、咄嗟に遺産を構える。だが、彼らの顔は恐怖に引きつっていた。
そして、神話喰いの巨大な鉤爪が、立ち尽くす一人の女子生徒へと振り下ろされようとしている。
まずい、間に合わない。誰もがそう思った、その瞬間。
俺は、無意識に駆け出していた。
頭で考えるより先に、体が動いていた。
(どうする、どうする、どうする!?俺の《模倣》じゃ……いや、待てよ)
脳裏を、一つの可能性がよぎる。
もし、一つの能力を模倣するのがダメなら。
もし、複数の能力をーー同時に模倣して、組み合わせたらどうなる!?
俺は、恐怖に震える生徒たちへと叫んだ。
「そこの二人!俺に能力を貸せ!」
ルビ振り多すぎぃ