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アスキーアートに法曹ぶち切れーーカスハラ容疑で不当逮捕ーー  作者: 森史之助
伍 先進国の時代錯誤(アナクロニズム)
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伍の6 早撃ち変換ミス装う

 上野で用事を済ませ、虎ノ門に戻った。大江・田中・大宅法律事務所の様子を見るためだ。夕刻になっている。

 ビル裏手の郵便受け扉を、その日の朝と同じように、勝手に開けてのぞいてみた。おれが投げ入れた封筒はない。無事、回収されたようだ。その日の夕刊は、配達前なのか、前日と違ってその日のうちに回収されたのか、ボックス内には見当たらない。

 防犯カメラらしい装置に向かい、今後は渦巻きを逆に外側から中心に向かってぐるぐる右手人差し指で、朝と同じように時計回りで描き、回れ右して現場を離れた。

 三和方面からも顧問弁護士方面からも、やはり音沙汰はない。


 その後もおれは、コピー・アンド・ペーストの要領で、「なにか」がせりふを吐くアスキーアートを連日作成。ファクシミリ送信と、都心などへ出る機会がある日には小山真邸、大江・田中・大宅法律事務所の郵便受けに投げ込んだ。

 相変わらず、音沙汰はない。

 月が替わったころ、ファクシミリの送信先を拡大した。

 株式会社三和が法人登記簿上の本店を置き、本社機能もそこにあり、同じ住所にある旗艦店舗にテナントを出店しているらしい家電量販店のファクシミリ番号が分かったからそこに。さらに、スズエ・アンド・スズエビルに入居する事業所のうち、ファクシミリ番号が分かる複数の事業所にも送信した。宛て名は、株式会社三和/代表取締役社長/小山真と、大江・田中・大宅法律事務所/弁護士/藤間崇史のままだ。

 受信した事業所から、本来の宛て先である株式会社三和、大江・田中・大宅法律事務所に、なんらかのアクションがあることを期待した。そのことで三和関係者と、藤間崇史周辺に揺さぶりを掛ける狙いだ。


 八月三日になって、おれのメールアドレスがこんな内容のメッセージを受信した。

《本日添付のFAXが届きましたので宛名を確認したところ、当社とは関係のない企業と法律事務所のようです。失礼ですが、FAX番号をお間違えではないでしょうか。恐れ入りますが、ご確認お願い致します》

 スズエ・アンド・スズエビルに入居する事業所からだ。おれのアスキーアートがPDFファイルで添付されている。

 回答はせず、この事業所へのファクシミリ送信は、この日まででやめた。


 翌四日は都心で取材予定があり、小山真邸と大江・田中・大宅法律事務所に寄り、その日未明にファクシミリ送信したのと同じアスキーアートを郵便受けに投げ込んだ。

 予定していた取材が早く済んだから、もう一度、大江・田中・大宅法律事務所に立ち寄った。ビル裏手の郵便受け扉を勝手に開けた。早朝、投げ入れた封筒は回収されている。おれは、リュックの中に常備している封筒の表に《弁護士 藤間崇史さま》。裏には、こんなメッセージをボールペンで書き込んだ。

《参上たてまつり、つかまつり早漏》

 謙譲語を重ねてみた。間違ったよう装い、男性性機能障害の一種である《早漏》の二文字を二重線で消し、同じ読みの《候》と直してみた。自分の名刺の余白部分に、かっこと中黒と全称記号のみで成立する顔文字をちょこちょこっとボールペンで描き、《候》封筒に入れ、郵便受けに放り込んだ。

 その日は、金曜だった。


 いつの間にか、パソコンに向かうと最初に、コピー・アンド・ペーストで「せりふを吐くアスキーアート」を作成する習慣が身についた。

 ギコ猫のように単純な構造のものだけでなく、漫画の登場人物をアスキーアートに落とし込んだ力作もコピー・アンド・ペーストした。秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の両津勘吉巡査長や、赤塚不二夫『天才バカボン』のお巡りさんに、弁護士を揶揄するせりふを吐かせた。歴史上の人物である聖徳太子(五七四-六二二)や、新興宗教団体かつテロリスト集団「オウム真理教」創始者で死刑執行された麻原彰晃(一九五五-二〇一八)を登場させた。

 何日も先の日付けのアスキーアートもパソコン内で保存し、あとはプリントアウトするだけの状態にしていた。

 八月十六日付けは、裁判所から《全面勝訴》や《不当判決》などと書かれた幕を手に事件当事者や支援者が、敷地内での撮影を許されない報道陣に向かって駆け出してくる様子を再現したギコ猫に、〈SLAP SLPA〉と言わせた。

 裁判所敷地内で幕を広げる、テレビのニュース番組などでその場面がよく採用されるこうした行為は、利害が対立する相手の萎縮につながる恐れがあるからと、裁判所で制限されている。だから、行為者は、裁判所職員の制止を振り切るために駆け足で、そのことがかえって報道映像で視聴者、読者にインパクトを与える結果を生む。

 英字で示したギコ猫のせりふは、金銭的余裕のある強者である法人など原告が、金銭的、経済的、肉体的、精神的負担などのダメージを弱者である個人など被告に負わせることを目的として、敗訴・棄却が当然であろう事案にもかかわらず加罰的・報復的に主に民事で訴えを起こす「スラップ訴訟」を指す。フリーランス記者による都合の悪い取材をつぶす手法として、国内外で悪用され、問題視されている。

 そして、弁護士、藤間崇史の言う「なんらかの法的措置」が、民事のつもりなのか刑事のつもりなのか、アスキーアートをせっせと作成していた時のおれは、読めていなかった。


(陸 気に入らないから退去しろ「1 隣で死なれる心理的瑕疵」に続く)

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