弐の8 二週間以内の回答求む
郵便切手貼付済みの返信用封筒でA4サイズの用紙三枚に書き連ねた文書を株式会社三和店舗運営部・矢島宛てに投函した日の夕刻、問題のスーパー三和奈良北店に店内の様子を見にいった。買い物はしなかった。
問題の総菜コーナーを見ていて、前の日に投函した書面の内容に一部、誤りのあることが分かった。ついでに、書き漏らしたことも合わせ、矢島宛てに二通目の書簡を郵送した。切手は自分で買って自前の封筒に貼った。
《冠省 当方発昨日(二〇二三年三月四日)付け貴職宛て文書に一部誤りがあったため、訂正するとともに、依頼内容について一件追加します。
当該文書 一 の項において、貴社奈良北店従業員が、《割り引きのラベルを刷りだすハンディ機器(なんという名称なのか知りません)を操作、惣菜パックにラベルを貼り付けた後、当該機器をしゃもじかスコップ、あるいは工事現場のブルドーザーのように使い、棚の惣菜パックを雑に移動してい》ると指摘しましたが、当該文書投函後、当該店舗で確認したところ、彼らはバーコードかなにかの値札(すでに貼られているラベル)情報を読み取るための携帯電話様の機材と、ラベルを刷りだすためのそれよりやや大ぶりの機材を計二種類、所携・使用していました。しゃもじかスコップ、あるいは工事現場のブルドーザーのようにして棚の惣菜パックなどを雑に移動しているのは、ラベルを刷りだす機材ではなく、それより小ぶりな、携帯電話様機材でした。
追加についてです。四日付け文書(本状での訂正含む)で尋ねたことに関し、本状送達時点から十四日以内に、回答をください。それが不可能な場合、同様に十四日以内に、その旨を文書でお知らせください。
以上、よろしくお願いいたします。草々》
レジ係ほづみ問題があってからもおれは、それまで通り、スーパー三和に買い物に出掛けた。
遠方に外出すると長時間、場合によっては長期間、帰宅できないから、午前十時から午後九時まで営業のこの店に行く機会を逃す。
半面、ずっと自宅兼仕事場の団地の部屋にいることが続くと、毎日のように、場合によっては一日に複数回通う。報道取材の基本である「定点観測」だ。
買い物をせず様子を見る目的だけの場合も、買い物がある場合も、カメラを持参する。商品足で蹴って移動や、惣菜の山ざくざく砂場遊びなどの現場を押さえてやろうと目論んだ。
愛用のリュックにカメラを入れて入店する。まず店舗内を一周し、撮影できそうな事象があれば、リュックからカメラを取り出し撮影。買い物があれば、カメラはストラップで肩に担いだまま、店舗備え付けのかごに商品を入れ、レジに進む。
撮影の機会がなければ、会計後にサッカー台でリュックからカメラを出し、代わりに買った品を詰め、その時点でカメラをストラップで肩に担ぎ帰宅する。
店の管理権者によって禁止されているであろう店内の「写真撮影」と、撮った写真の「公開」は、それぞれ別の問題だ。また、いずれの禁止も、公共の福祉の、あるいは消費者の安全や利益の追求を目的とした報道のため、取材のための行為であれば、司法判断によって違法性が阻却される可能性がある。ただ、あくまでも「可能性」というレベル。
定点観測の結果、株式会社三和従業員である店舗関係者によるそれまでに確認できなかった、よその店でも見たことがない驚くべき危険な行為を写真に収められた事実は、後述する。
店舗運営部・矢島に宛てた二通目の書簡で指摘した、スーパ三和奈良北店従業員が総菜コーナーで、すでに貼られているラベルのバーコード情報を読み取るための携帯電話様の機材と、ラベルを刷りだすためのそれよりやや大ぶりの機材を計二種類、所携・使用しており、しゃもじかスコップ、あるいは工事現場のブルドーザーのようにして棚の惣菜パックなどを雑に移動しているのは、ラベルを刷りだす機材ではなく、それより小ぶりな、携帯電話様機材だったという部分は、あえて分かりにくく記した。
この日は、ざくざく雑に移動する姿を現認していない。しかし、読み方によっては、この日もそれを見たかのように誤認するだろう。
それくらいの危機感を持って、三和株式会社には、店舗運営部・矢島には、事に当たってほしい。
回答に期限を設定したのは、スーパーなど流通関連業界全体に問題提起し消費者に注意喚起するため、なんらかの活字媒体で発表するつもりなので、そのスケジュールを構築する目的だ。もちろん、先方たる、つまり取材対象である株式会社三和の都合を優先させるため、十四日以内の回答が困難な場合には、その旨を知らせるよう求めている。
十四日以内としたのは、この種の要請をする場合、一週間すなわち七日の倍数で期限を設定するのが、日本の、おそらく世界の先進諸国の官民事業所、個人の常識だから。
例えば国や自治体の官庁に、情報公開法に基づく行政文書の開示を請求すると、官庁はたいがい申請書を受理した日から十四日以内に開示か非開示かの決定をし、申請者に知らせる。それが不可能な場合、七日の倍数の日数で延長する。
医療機関も通院患者への医薬品の投与で、七日の倍数分、処方する。結果的に、仏教における法要の概念である「四十九日」分という縁起の悪い処方箋も乱発される。
次の動きを七日の倍数の日数後と設定すれば、その日は同じ曜日だから、予定を立てやすい、忘れにくいというメリットもある。
二通目を送ったのは、これらを確実に株式会社三和店舗運営部・矢島の支配圏内に到達させるためだ。民法(九七条など)の発想に基づく。
矢島がおれ宛てに送り付けた書簡は簡易書留を使っているから、日本郵便の記録で、おれかおれの代理の者が受け取った、つまりおれの支配圏内に到達した事実とその日時が、矢島側にも分かる。
半面、同封の返信用封筒に貼付されていた切手は普通郵便のための額面なので、それを使って普通郵便で投函しても、返信が矢島の支配圏内に到達した事実を、おれは確認できない。
差額をおれが負担することで書留などとして差し出すことも可能だが、そこまでする必要はなかろうと判断した。ただ、二通に分け投函すれば、「二通とも届いていない」とは、常識的に、株式会社三和側も言えまい。
その担保のためだ。
しかし、待てど暮らせど、株式会社三和店舗運営部・矢島からの返信はない。二通目が到達したであろう日から二週間を過ぎても、延長を求める連絡もない。
三週間待って、おれは行動を起こした。町田市森野二丁目の、社長・小山真邸を襲撃した。もちろん、直前に通告してからだ。
(「弐の9 なにもしゃべるなと弁護士が」に続く)