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シンメトリア戦記  作者: 羽原 輪
神皇誕生 編
2/21

第2話 その名は〝アモン〟

「どうぞこちらをお召ください」


魔導士の一人が用意していた着物を差し出した。魔虫まちゅうである妖蚕ようこから紡ぎ出して作られた繊維に様々な魔的な触媒しょくばいを加えて造り出された衣服は着る時にはどの様な体形の者にも形を合わせてくれる。それだけではなく防御力も高く耐刃、耐魔の性能が非常に高い。青年は無言で受け取ると下着とズボンを身に着けた。その時、何者かが急ぎ足で螺旋階段らせんかいだんを降りて来る音が聞こえた。かしづいていた者達が全員立ち上がる。何人たりとも立ち入る事のない様にと島の者達に申し付けていたにも関わらず不届き者が入り込んで来たかと考えたのである。

転げ落ちそうな勢いで降りて来たのは連絡役を務める豹頭族グゥイネスの男だった。


「来るなと言っておいたのに仕方のない奴だ」


彼の姿を確認した魔導士のリーダーが呆れた口調でそう言ったが男は両膝に両手をついて息を切らせながら叫んだ。


「そんな事を言ってる場合じゃねーよマーリンッ!奴らの船が一斉に近づいて来やがったッ!」

「一斉にとはどの程度だ?」

「全部だよッ!この島をぐるりと囲んでやがる戦艦全てだッ!」


思案も一瞬でマーリンと呼ばれた魔導士が男に告げる。


「我ら七名も直ぐにそれぞれの配置に就く。他の魔法士ソーサリス達にも直ぐに向かうと伝えておけ。後は全ての部族に上陸に備えよとな」


男は頷くと返事も返さず一目散にもと来た階段を駆け上がって行った。


「何事だ・・・」


ボソリと()()()()()()()の青年が口を開いた。マーリンは彼に向き直るとこの島が今、置かれている状況を手短に話した。


「私に戦えと言う事か?」


と、青年は問うたがマーリンは首を横に振った。


「そうでは御座いませぬ。貴方様ご自身の意志でお好きな様にお振舞下さいませ」

「私はこの島を守る為に生まれて来たのではないのか?」

「確かにそうして頂ければ我ら島民全てにとってこれ以上ない喜びに御座います。しかし我らが貴方様を誕生させた理由、それはこの世界に〝神〟を生み出す事に御座いました。目に見えぬ信仰の先にいる神ではなく、この世界に目に見える神を誕生させる事こそが我らの願いで御座います。故に貴方様の振舞いによって起こされる何もかもが神の御意志に他なりません」


青年はジロりとマーリンと呼ばれた男をねめつけた。


「ならば今ここでお前を殺してもお前達は納得すると言うのか?」

「その通りで御座います。全員が覚悟を持っておりまする」


その場にいる全員が首肯しゅこうした。途端に彼は目にも止まらぬ速さでマーリンの首を片手で掴んで持ち上げた。さほど力も入れたと見えずに大人、一人を軽々と持ち上げる姿に周囲の者達は驚きの声を上げた。だが、誰一人としてそれを止めようとする者はいなかった。彼らの意志は本物だった。とうのマーリン自身も苦し気な顔をしながらも僅かに笑みさへ浮かべていたのである。青年は力を緩めて、そのままそっとマーリンを降ろした。


「私は生まれたばかりだ。頭の中に様々な知識は存在するが体験が伴っておらぬ。まだお前達には色々と教えて貰わねばならん」


マーリンはじめ一同が頭を下げた。


「我らでお役に立てる事があれば何なりと」


青年は頷いた。


「教えて貰うには静かな方が良かろう。この島を包囲している者達を排除する」


全員が臣下の礼を取る様に今度は片膝をついた。


「ならば直ぐに武装をお持ちいたします。更に今一つお送りしたき物が御座います」

「なんだ?」

「貴方様の御名みなで御座います」

「名?・・・そうか生きとし生ける者には必ず名があるのだったな。して私の名は何だ?」

「は。この島の名は〝アモス〟と申します。この島でお生まれになった御方(おかた)、故に〝アモン〟様という名をお送りしたく存じます」

「アモンか・・・」

「大陸の者達は異形種が多く住むこの島を〝魔の島〟と呼びまする。しかし外でどの様な呼び方をされ様ともこの島に住まう我らには関係なき事。この島アモスで誕生されし貴方様にお送りしたき名はこの島より頂戴しました」

「良いな。・・・気に入った」


アモンと名付けられた青年は初めて笑みを浮かべた。この時、生まれて初めて感情という物を彼は表に見せた。



打って変わってアモス島を取り囲んだヴィセリア帝国の旗艦きかんの船上では今回の作戦の指揮官である今年55歳になるヴィセリア帝国第四軍司令官であるボルドフ・バーレ将軍が不機嫌そうな顔を隠そうともしていなかった。


「島の者共はこの状況を理解しておらぬのか?先ほど全艦艇に命じて距離をせばめたにも関わらず一向に反応を示さぬ。我らが一斉に魔法攻撃を仕掛ければ殲滅せんめつされるだけなのだぞ」

「我らが上陸後の地上戦にかけるつもりかも知れません」


そう声を掛けて来たのは今回の作戦にいて将軍の副官を務める二回り以上も若い男性だった。副官だけではなく作戦の成否せいひを確かめる為のお目付け役でもある。それを理解しているバーレ将軍の彼に対する態度は冷たい。

今回の作戦によって本来の彼の副官二名は彼が乗船する旗艦きかんの両脇にいる護衛艦に指揮官として乗船していた。

新たに即位した新皇帝のめいとはいえ将軍からすれば自身の事を信用できないと言われている様で気分が悪い。


「包囲して十日あまり、こちらから再三に渡って降服する様に小舟で近づいて呼びかけているにも関わらず無視を決め込んでおります以上、他に作戦の立てようが無いと見受けますが」

「フンッそんな戦術が上手く行く物か。島の者達の能力がドレほど優れていようがこちらは上陸と同時に魔法士ソーサリス部隊を前線に出して〝火球(ファイアー・ボール)〟の魔法で追い立てて行くだけよ」


指揮官のこの発言に副官も頷いく。今回の作戦に動員された魔法士ソーサリスの数は400名以上に上る。これはヴィセリア帝国軍に所属する魔法士ソーサリスの三分の一にあたる人数である。第二種魔法である〝火球(ファイアー・ボール)〟の魔法ひとつで複数人を倒す事の出来る魔法士ソーサリス達は非常に貴重な存在で数自体も少ない。それが400名以上である。しかも第二種魔法どころか第三種魔法を使いこなす者達も数は少ないが乗船していた。只でさへ貴重な魔法士ソーサリスをこれだけ投入している作戦である。島にどれだけの魔法士ソーサリスがいようと対応出来るはずがない。と、考える方が普通である。


「出来るだけ損害少なく島を手に入れたかったが応じぬとあれば致し方ない。猶予は充分与えた。これ以上の待機は無意味。今より更なる進撃を行う。上陸作戦に移行する様に通信球で各・艦艇に指示を出せ」


そうバーレ将軍が命令を出した時だった。副官がまず()()に気が付いた。


「閣下、お待ち下さい。何者かが浜辺に近づいて参ります」


副官が腰に下げていた望遠鏡を手に取って確認する。


「男が・・・二人ですな。一人は長衣ローブを羽織っておりますから恐らく魔法士ソーサリスかと思われますが、もう一人は・・・半裸の上に心臓部分に胸当てを取り付けた格好から戦士かと思われます。大剣グレート・ソードも肩に担いでおりますので護衛の戦士か何かかと」

「貸せ!」


そう言うと副官から望遠鏡を毟り取る様に奪い取ると将軍も(のぞ)きこんだ。


「ふぅ~む。奴らの代表か?ようやく降服する気になったか?いや、それにしては白旗も持参しておらぬな。何のつもりだ?・・・確認の為に小舟を一艘いっそう出せ」


複数人が同時に転移できる大転移の魔法で島の北部沿岸まで来たマーリンとアモンの二人はそのまま浜辺に進み出たが、それを息を潜めて見つめている者達がいた。北部の海岸付近の斥候せっこうを担当している獅子族レオル豹頭族グゥイネス人族ヒューメナスの三部族の若者達である。

獣族ヴィスト・レア人族ヒューメナスの違いは主に頭部と体格にある。獣の如き頭を持つ獣族は人族ヒューメナスよりも成長すると一回り以上、大きくなるが、まだ十代前半の彼らは種族的にはそれほどの体格差はなかった。


「おい。トルゥーどう思う?」

「どうって?」

「マーリンは〝神〟が誕生した。なんて言って向かって行ったがオレは神様なんて信じちゃいねぇ。連中が長い間、島の真ん中のほこらの下で怪しげな研究を繰り返してたのは知ってるしこの島の為に色々尽くして来てくれたのも知ってるけどよ。突然、何処からか見た事もねぇ男を連れて来て〝神〟だなんて言われてもよ・・・」

「もう何もかも絶望して新しい宗教でも始めたって言いたいのか?」


豹頭族グゥイネスのトルゥーに話を吹っ掛けた人族ヒューメナスの男は(その通りだ)と言わんばかりに頷いた。


「トッド。そんな事を今更、気にする状況か?奴ら船の包囲を狭めて来てる。もうすぐ上陸して来るだろう。今から新しく宗教をおっ始めようが数時間後にはそんな事なんてどーでも良くなってるだろうぜ」


自嘲気味に人族ヒューメナスのトッドは「確かに」と呟くとあきらめた様な笑みを浮かべた。


「バルドーの言う通りだな。後、数時間でこの島の運命は決まる。今更ジタバタしたってしょうがねーよな。死んだらあの世でロジャーに店を開いて貰って皆でリンゴジュースを飲み明かそうぜ」


その言葉に全員が笑顔で頷いた。若いながらも既に彼らの覚悟は決まっていた。いや、この島に住む者達、全てが覚悟を決めていた。


アモンとマーリンは波打ち際まで進むと敵の船を見た。三(せき)ほどが等間隔で位置を保っている。中心に見える四本のマストを備えたガレオン船が最も大きな船であり旗艦きかんであろう事が見て取れる。


「マーリン。下がっていろ」


言うやアモンが右肩に担いでいた大剣を鞘から引き抜いた。マーリンが鞘を受け取るとアモンの後方に下がった。アモンが前をしっかりと見据えて左手を前に右手で剣を後ろに引く。


「確か記憶の中には第二種魔法でも同様の事が出来たと思うが・・・〝切斬スラッシュ〟だったか。今は違う方法を試してやろう」


マーリンはアモンを中心に大気の揺らぎを感じた。何かをする気だという事だけは理解出来た。同様に旗艦きかんの甲板で望遠鏡を覗いていたバーレ将軍も気がついた。


「なんだ?あの男は・・・剣を手にしたと思ったら急に構えたぞ。降服する為に進み出て来たのではないのか?」


その時、「フッ」という短い呼気と共にアモンが大剣とは思えぬほど軽々と剣を右上から左下に向けて振り抜いた。そして―——


ズドォオオオンッ!!!


と、いう轟音と共に旗艦きかんの船が傾いた。


「な・・・なんだぁッ!何が起こったッ!!!」


バーレ将軍の声だけではない。船上も船内でもあちらこちらで叫び声が上がり船全体が一瞬にして恐慌きょうこう状態に陥った。何と船が傾いて行くのである。だが正しくは船が傾いた訳ではない。何故なら船の底部は無事だったからだ。旗艦きかんにいた者達よりも周囲の護衛艦二隻(ごえいかんにせき)の甲板にいた者達の方がその瞬間が良く見えていた。

浜辺にいた男が剣を無造作に構えた瞬間、紫色を更に濃くした紫紺しこんとも言うべき光が燃え立つ様に彼を中心に立ち昇った後、その光は構える剣に収束して彼はそれを斜めに振り抜いたのだ。するとその光がまるで鋭利な刃の如く翼を広げて海を切り裂きながら旗艦きかんに突撃したのである。光はかんを右上から左下に斜めに突き抜けてそのまま何処いずこかへと飛んで行った。全てはあっという間の出来事だった。

その紫紺しこんの光りが飛び去った後に光が駆け抜けた軌跡きせきを追う様に船はづれて上部が海に落ち始めた。護衛艦にいた者達はその光景を只、茫然ぼうぜんと見つめていた。

誰も理解が追い付かずに一瞬、放心状態に陥ってしまったのだ。だが、さすがに指揮官はいち早くその状態から回復した。


「救助艇を出せッ!一刻も早く将軍閣下をお救いするのだッ!」


その言葉に周囲にいた者達の全員が我に還って急いで行動を始めた。周囲が慌ただしく声を上げて動き始めた中を艦橋にいて浜辺を再び見つめ直した指揮官は思わず震える唇で小さく呟いた。


「頼むからこちらを見るな・・・」と。


マーリンは感動のあまり涙を流していた。彼を始めとした魔導士達の研究の集大成。成果が今、目の前で結実しただけではなく〝大いなる力〟の一端を目撃出来たのだから・・・自分達の研究は間違っていなかった。数限りない失敗の上に到達したのだ。人の手による―—〝神の創造〟という偉業に―—

彼のこの思いに呼応した訳ではないが、近くに目を見開き口を大きく開けて驚きと共にその光景を見ていた者達がいた。斥候せっこうとして雑草の中に隠れていた三人である。


「すげぇ・・・」

「見たかよ今のッ!」

「見た。なんだありゃ?魔法か?」


三人はそれぞれ茫然としながら驚きながら互いに言葉を交わすが何が起こったのか理解出来るはずもなかった。何とか判る事は、只、何か凄い力で敵の旗艦が粉砕された事ともしかすると自分達は助かるのではないか。と、いう淡い期待だけだ。


「さて他の場所に行くとするか」


自身の成果をじっくりと確かめる事もせずに海に背を向けてアモンは歩き出した。マーリンが鞘を持ったまま従う。この浜に出て来る時に三人組には邪魔をしない様に申し付けて出て来ていたので三人組の居場所に近づいて声を掛けた。


「我らはこのまま他の防衛地点へ向かう。お前達はこのまま連中の行動を見張ってくれ。それと敵がまだ何らかの攻撃を仕掛けて来そうな場合は予定通り中継地点へ報告を頼む」


三人は片膝を落したまま茫然とアモンとマーリンを見上げながら声も出せずにコクコクと頷いた。只、アモンを見つめる三人の瞳にはこれまでになかった憧れの様な物が芽生え始めていた。マーリンが大転移の呪文を唱えて一瞬の内に二人の姿がき消えると三人は興奮しながら今、目の前で起きた出来事を大騒ぎしながら話し始めたのだった。

こうして二人は島を囲んでいる敵の近くに大転移を繰り返してアモンが先ほどと同様に剣を振るい、一隻、二隻と艦を両断して行った。やがて敵は慌てふためきながら方々のていで島の包囲を解いて周囲から撤退して行った。この出来事は目撃した敵、味方、双方に強烈な印象を残す出来事となった。

只、この時、アモンは敵船を全滅させる様な事はしなかった。又、マーリンもそれをすすめる事をしなかった。彼は自ら生み出した〝神〟なる存在に如何なる制限も要求もしたくなかったのである。

後に語ったアモンが敵を殲滅せんめつしなかった理由は、彼、いわく軽く剣を振った程度で潰れてしまう敵船に興味を無くした。と、いう事だった。だからこそ最小限の攻撃で済ませてしまったらしい。果たして彼を満足させる敵は現れるのか?それは誰にも判らない。アモン本人にすら判らない事であった。


登場種族 アモン 


人族ヒューメナス

豹頭族グゥイネス

獅子族レオル

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