最後まで心を灯し続けたその燈
実はケンジが新しいスキルを使えたのは理由がある。それはあの少女の謎の力が働いたからというわけでもない。タクマサ達のおかげというわけでもない。
それはケンジが<<細雨>>のスキルを取得した時に、実はザボ爺が<<細雨>>のスキル脈の他にスキルのスキル脈を密かに作っていたのだ。スキル脈を作る分には問題ない。スキル脈を作ったとしても、しっかりと構築されて作成されており、あとは発動しなければ身体に影響は出ない。
本来この方法はスキル屋では御法度である。必ず、スキル書を購入してからスキルを習得させるという商売に反するからである。誰だってお金は欲しいし、スキル屋はその商売方法に従って生計を立てている。
しかし、歳を取ったザボ爺にとってはそこまでお金は必要ではなかった。何よりも、つまらない薪割りを必死にこなし、何度もダイゴに負けようとも立ち上がるケンジの姿に心を動かされていた。つまりケンジの誠意ある努力が、ザボ爺の心を揺さぶり、最終的にはケンジの体に幾つかのスキル脈を作成されていたのだ。
と言っても、ケンジの力量では、あまりに取り扱いが難しいスキルが含まれていた。特に、後にケンジが知るこの雨を元にして考えられたこのスキルシリーズは簡単に取得できるものではない。体の負担が大きいためケンジ本人には内緒にしていた。
ザボ爺がダイゴに伝えていた。時が来た時に使って欲しい、と。ダイゴが頷いて、いつその時が来るのだろうか、と少し楽しみに思いながら窓から街を眺めていた。ダイゴが伝える前に、皮肉にも、ケンジは自らスキル脈の存在に無意識的に気づいてこじ開けてしまったのだが。
ケンジが新しいスキルを使えたのは、彼自身の努力が人の心を動かしたからであった。
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気づいたらケンジは肩で息をしていた。とにかく、呼吸が苦しかった。
もう何が起きたのかも分からずケンジはその場で倒れた。しかし、地面に触れることはなかった。
「ケンジ、しっかりしろ!!」
誰かが受け止めてくれたのだ。その者が体を揺さぶっている。もうケンジに戦う力は残っていなかった。
「ダイゴさん…?」
目の前に死んでしまったはずのダイゴがいた。確かにケンジを抱えている。その奥で、突然瓦礫がひっくり返った。巨大な魔物、<<アッシュ・ベヒモス>>だった。しかし、かなり弱り果てているのか、こちらに向かってこない。立つこともなく、やがて倒れてその場で蹲っている。もう虫の息であった。
「よくやった。後は俺たちに任せてくれ」
「ケンジ!」「ケンジ君!」
ケンジの耳元で皆が駆け寄ってくる音が聞こえる。
エナキ、モモカ、ミライ、ティアのみんながこちらを覗き込んでくる。みんな、死んでいない。
「俺…大切なもの…。守れたんですかね…?」
その問いにダイゴが頷いた。
「守れたよ、ケンジ君」
最後にミライの声を聞いて、ケンジは安心して意識を手放した。
視点が色々飛んだので、分かりやすく前回のエピソードと分けさせていただきました
神視点難しい...




