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捜索が難航する燈たち

洞窟の奥地は、また別の洞窟の中に入っていると思えるくらい景色が違った。壁の色もやや赤色へと変わり、まれに宝石のような鉱石が顔を覗かせている。整備されていると言い難く、ランプの数は減り、かなり薄暗い。しかも足場もかなり悪いことこの上なかった。


時折<<アッシュ・ベヒモス>>が通ったような形跡が残されて、ケンジ達はゾッとした。あれから足音は鳴っていないが、未だ生存して活動しているのは分かっている。幸いにもあちらの足音はかなり大きい。地面が少し揺れるほどだ。近づいてくればすぐ分かるし、その間隠れてやり過ごすことができればさほど脅威ではないというダイゴの言葉を信じてケンジ達はさらに奥へと進んだ。


奥地に入ってケンジ達はいくつかの問題に直面した。


「やっぱり、上手く使えないですね…」


まず、ミライの<<スターライト>>の魔法が急に音を立てて消滅してしまったことだ。


ダイゴがその場の材料、地面にあった壊れかけの斧から持ち手の木の棒を取り、火はそこらに埋まっていた赤色の魔石、を集めて簡易的な松明を用意してくれていたが、しばらく歩みは止まった。魔法が使えなくてもかなり問題だが、明かりがないと魔物の奇襲に耐えられない。


「空気中の魔力が濃い…影響かしら?」


ケンジにも心当たりがあった。洞窟の奥地は多くの魔石が眠っている影響から空気中の魔力がかなり濃く、一部の魔法やスキルに影響が出るという噂を耳にしている。


「なるほど。じゃあ込める魔力が強すぎるのかも…。ちょっと調整してみます」


ミライの考えは正しかった。何度か試行錯誤した後、<<スターライト>>は再び空中を舞った。魔法はスキルとは違い、発動には外部的要因も絡んでくる。それは自身の魔力と空気中に含まれる魔力の両方を利用して魔法を発動するためであり、<<スターライト>>は比較的微力の魔力で発動する魔法らしい。だから、自分が込める魔力を少なくして、空気中の魔力に頼るように構成を変えたというだが、ケンジには一つも分からない。


「ミライ凄いよ!!!」


同じ魔法使いのモモカでも分かっていなそうだった。

安心した。剣の才を持つ自分が分かるはずがない、とケンジは思った。


そういった問題があり、一通りの魔法を発動しておいた方がいいという話になった。いざという時に使えなかったら困るからだ。何も試していないモモカがひとまず<<ウインド・ショット>>を打ったがこちらは問題なく使えた。本人曰く通常よりも魔法が発動しやすく、威力も高くなったという。ミライは魔法が使えなくなり、反対にモモカは使いやすくなった。もしかすると、個人差もあるのかもしれない、とケンジ達の頭を悩ませた。


結局、戦いながら確認しよう、ということに決まった。弱い魔物ならそれなりの頻度で遭遇する。どうせ使うなら試し撃ちではなく、実際に倒して欲しいということもあった。前衛の疲労が半端ではないのだ。主軸ではないが、洞窟の奥地からミライとモモカも戦闘に加わるようになった。


「それにしても暑いわね…」


そして、もう一つの問題は、暑さだ。蒸し暑さで洞窟内は充満していた。


服がまた一枚、また一枚と脱がされて、露出が多くなったティアから思わずケンジは目を逸らした。ティアは気にしている様子はなく胸、太もも、お尻…。それらがケンジの目のやり場を恐ろしいように奪っていく。


もうほぼ下着に近いのでは…。


大きな、大きなその果実が今もその下着から溢れ落ちてしまいそうなほど、元気一杯に揺れ動いている…。


そんなティアを見てミライは気にしているのか、お気に入りの服を着て一つも脱がない。ケンジも一枚脱いだだけで、肌を露出していない。モモカは、服を脱いである程度素肌が見えるものの、ティアほど破壊力を持ち合わせていない。


ダイゴは上半身裸だった。鍛えられた逞しい体には、大量の汗が滴る。


「はしたないわよ」


とティアが。


「お前がいうな」


とダイゴが。


「…どっちもどっち?」


とモモカが。


「しぃー!しぃー!しぃー!黙っとく!」


とミライ。声を1番大きくして。


ケンジに参加する気力はなかった。1人リュックを背負っているからかもしれないが、とにかく蒸し暑くて倒れそうだ。皮袋に詰め込んだ水がかなりの勢いで減っていく。残りの水分も考慮しながら飲まないといけない状況になってきた。


魔物の見た目も変わった。明らかに火属性を持ったような魔物が明増え始めたのだ。体に炎を纏っていたり、魔法も火属性ものが多かったりする。ティアは木属性らしく、火属性には弱く攻撃も通り難い。逆にケンジは水属性なので攻撃が通りやすかった。確かに水属性スキルの<<細雨>>を放つと、魔物の体は一瞬で切れたりすることもある。


そういった属性を考慮して、途中でティアを回復役へと後続に下がることになり、前衛はダイゴとケンジの2人となった。幸いにも苦戦するような強い魔物には今のところ遭遇していない。


中はかなり入り組んでいて、先ほどから同じような道を通っている気分だ。その中をケンジ達は勘を頼りして進んでいく。分かれ道が出てくれば、人が通りそうな道をなんとなく選ぶ。道に何か落ちていないか、確認しながら進んだ。道にはあの日の戦闘を物語れるような物は落ちていた。しかし、それがエナキの手がかりになるかと言われると難しい。


そして元来た道に戻れるよう、時折短剣で壁を削り、目印をつけた。ここ辺りが徹底しているのはダイゴとティアのおかげであった。


時折ミライが、


「髪留めはどう?」


とモモカに確認を入れる。モモカが髪留めを手に取り、


「…うん、まだあるよ」


と後ろの方で答えている。しかし、その魔力の輝きがさらに弱まっていることは誰も言わなかった。消えてしまわないことを心の中でケンジは願った。そして、ダイゴが「急ごう」と言うだけだった。そんな流れを数十回以上繰り返した。


ある地点で、ダイゴが足を止めた。その時にはケンジ達は疲労し切っていて、一旦休憩が必要なのではとティアが提案したその矢先であった。


「見ろ」


ダイゴが壁に指さした。そこには明らかに削られていたような跡がある。


「俺たちが作ったものじゃない…?」


「エナキ君が作ったものってこと?」


「分からん。ただ、新しいな。最近できたものだ」


それだけだけでもケンジ達に取って希望の光だった。その傷跡は確かにケンジが進むにつれて何度か現れた。もうそれを信じるしかない、とケンジ達は見落とさないようによく壁に目を凝らしながら、傷跡を追った。


ただ傷跡を見つけた以降、同時に増えてきた魔物がいた。


アンデット系だった。人骨ではなく、それも人の形を保っている。それが何を意味するのかケンジにも分かった。おそらくこの奥地まで逃げてきた兵士や燈がいたのだろう、しかし、奥地に来すぎてしまったために、誰にも見つけられることもなく、適切な処理が施されなかった。


故に彼らはここらで力が尽き、魔物へと変わり果てた。


「いやぁぁ」


モモカが小さな悲鳴をあげた。


「モモカちゃん、ミライ。辛いなら見なくていいわ…」


後方でそんな会話のやり取りが聞こえた。それらと遭遇した時、同様にダイゴがこちらを見た。おそらくケンジも辛ければ後ろに下がってもいいという意味だったんだろう。ケンジは首を振って、それから刀を構えた。


そして、迷いつつもケンジは刀を刺した。死肉に向かって。きっとそれが彼らにできる最後のことだろうと信じて。死んでいることは確かのだが、まだかろうじて意識が残っているのか、魔物の歩みは非常にトロく、まるでケンジの刃を待ち望んでいたように感じた。


戦闘を終え、聖水をかけると彼らは人の心を取り戻したように微笑み、白い煙となって消えていった。



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