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絶望で消えそうになるその燈③

「うわぁぁぁぁ!」


嘘だ。嘘だ。嘘だ。


まるで滑落するようにがむしゃらに丘の上から下へと降り、海辺の方に向かう。


次に向かったのは選抜パーティの建物だった。以前エナキと行ったあの選抜パーティの建物だ。おそらくここに誰かしらいる。ケンジは叫びながら走った。空は雷が落ち始めた。誰も歩いていない中、ケンジだけが豪雨の中を走り抜けていく。


頬を伝う雨粒が不愉快にも口の中に入っていく。体は長時間の雨粒を浴びたせいで冷たく、指先の感覚がほぼ失うほどであった。しかし、ケンジには関係なかった。どうでもいい。どうでもいいのだ。



しかし、ケンジの足はある地点で止まった。王族の兵士がやけに屯していたのだ。その脇道に入れば選抜パーティのいる建物に入れるというところで。


ケンジは血の気が引いた。何度目かの不吉な予感がケンジの体を蝕んだ。そして突然ケンジはすぐ近くの別の脇道へと吸い込まれた。浮浪者がケンジを引っ張ったのだ。


「な、何を…!」


「お前さんよぉ、覚えてる。覚えてるよぉ〜、一回あそこにきたことがあるだろ?」


ケンジが驚いているのを関係なしに、不良者は話しかけてくる。歯がボロボロで呂律も回っているか怪しい。


「あそこって?」


「あのコウガの旦那がいたところだよ!」


すると急に神妙な顔になった。


「悪いことは言わん。さっさとここから逃げろ…!奴ら、あの建物を襲撃して、おらたちの仲間もみんな捉えられたんだ!この道をまっすぐいけ、そしたら逃げられる。…それにしてもお前は運がいいな、あのまま向かっていったら最悪殺されたかもしれないぞ。俺のおかげだろ、なぁ。そんな俯いてないでよぉ…なぁ…ここまで言えば分かるだろ….情報提供料だよ、30銀貨寄越せ。なぁ…そんくらい安いだろ?」


*********


宿舎に着いた。


皆が最後に朝食を取った、その生活の風景だけが残されていた。洗われていない木鉢と調理器具の数々。帰ってきた時に食べようと思ったのだろうか、残された鍋には残飯も残っている。もう生きて帰って来れないと覚悟を持った者もいたのだろうか、片付けられることなく瓶がいくつか転がっていた。普段ならしっかり処理されているだろうに。


誰もいない。誰も。1人だけ。ケンジだけだった。辺りは不気味なほど静かだ。人の気配も何も感じない。ケンジだけがこの場所で音を鳴らし、ケンジだけがこの場所で動いている唯一の生き物だ。


何度も上がった階段を上がった。通路には部屋の物が全部引き出されていた。誰かに荒らされたのだ、ということは明白だった。それを他人事のようにケンジは眺めた。もうどうでも良かった。


どの扉も開いている中で、ケンジ達の扉だけは閉まっていた。何度も開けた扉を開いた。ここがケンジたちの部屋だった。


期待はしていなかった。ケンジは扉を開けた。


部屋には何も残っていなかった。


ザァァ。


手がかりはなくなった。



雨は止みそうにない。遠くの方で雷が鳴る。ケンジは膝から崩れ落ちた。みんないない。いない。いなんだ。拳で、地面を叩く。叩く。叩く…。それでも地面は割れることなく、ケンジの拳だけが傷んだ。


「くそぉ……」


何をやっていたんだ。こんなことになるかもしれない。分かっていたじゃないか。なのに、なんで討伐なんか行ったんだ。


「くそぉぉぉ….」


燈が虐殺にあったことを、いやもっと前に燈が差別にあっていた頃からもっと重点的に調べれば良かったんだ。できることがあったんじゃないのか。そしたらザボ爺だって死ななかったかもしれない。呑気に鍛錬なんかしている場合じゃなかったんだ。


エナキ、モモカ、ミキジロウはいない。


「何をやってんだ、俺はぁぁぁ…!!!」


もう遅い。全て。


「くそぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!!」



みんな、消えた。






どれだけ時間が経ったか分からない。どれだけ殴り続けたかわからない。床は湿り、傷んだ拳からは血が垂れていた。


足音が聞こえた。


―――ミライだった


次からしっかり5000字程度書きます

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