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明日を掴む燈たち


キラーモントの攻撃は変わらなかった。あのケンジを吹き飛ばしたような攻撃態勢に入ったのを見てミキジロウは別々にして回り込むように走り出した。キラーモントは追うことなくケンジを見つめ、ケンジは今日何度目か<<火斬>>の発動するため魔力を流す。やはり背中の痛みは薄まっていた。


ブワッ!


風を切り、鎌が飛んでくる。


「火斬!!!」


キィと金属音が鳴り響いた。ようやくケンジは完璧に攻撃を防ぐことに成功した。よく気が付けば、キラーモントの鎌は少し焦げた跡がついていてボロボロになっていた。先ほどのケンジの攻撃は決して無駄ではなかったという証拠だろう。


「あー銀貨5枚!!!あー銀貨5枚スマッシュ!!!あー金だ、金!最高でっせ!!!」


キラーモントの右横から風が飛んで来るのを頬に感じ、その度にキラーモントの体が飛び跳ねる。金という欲望に囚われた人間の醜いパンチが魔物へと降り注がれていく。


「気合い入れて、気合い、ケンジ!!! 俺たちは今日、肉を食うんだ肉をよ!!!」


ケンジに向かって言っているのか分からない叫び声が、辺りを支配する。


「女にもモテモテだぜ、ケンジ!!俺は今日、大人の階段へと登っていく。お前も一緒に登らないかってんだよぉ」


大声で女性陣には聞かせられないことを好き勝手にほざいていく。ケンジは無視して、スキルを発動していく。黙々と、それでも心の底では闘志を燃やし続け冷静に戦闘をこなしていくのが、ケンジの戦闘スタイルだ。次は<<スラッシュ>>だ。


「お前、ケンジ!お前はミライちゃんで登らないと駄目だからな!」


「ふざけんじゃねぇよ!!!大声で言うことじゃねぇだろ!!!」


スタイルはすぐ崩壊した。


「おぉ、おいおい。こっちまで衝撃の伝わるすげぇ一撃じゃねぇかよ!今のを大切にしろ、ミライちゃんと、登ることをだ!」


「だから黙ってろって!!!」


かなり威力のあるいい攻撃が入った。感触でケンジは分かった。その足をミキジロウに見立てた甲斐があった。怒りのスラッシュがキラーモントの前足を捉え、足がひん曲がっていく。人の心によって威力が変わることを聞いたが本当なのかもしれない。


「じゃあミキジロウ、お前はティアさんとだな!?」


「バッキャロウ!テメェ、なんてこと大声で叫びやがるんだよ!!!」


「それはこっちのセリフだろ!!!」


「言っていいことと悪いことがあってぇんだよ!!誰がティアさんの体が最高って?!!」


「そんなこと一言も言ってないだろーーー火斬!…くそ、真面目にやれよ!クソジロウ!!!」


「やってるじゃねぇか!バカケンジがよ!銀貨5枚スマッシュ喰らわせんぞ!!」


不意に木々の影から、緑色の球体が飛んできた。中には、風が無数に包み込まれている。モモカのウィンドショットだった。そのままキラーモントに直撃し、弾け飛んだ風がキラーモントに傷を刻んでいく。ケンジ達も申し分なく巻き込んで。


「私の名前が上がってなんだけどー?!」


どこからかともなく、モモカの声が響き渡る。少し怒っている。


「私の名前がないんだけどーーー!?」


名前が上がっていない…どう言うことか。ミキジロウの反応が早かった。


「モモカちゃんが1番最高です!!!」


「も、モモカがいいよなーー!」


「あったりまえよぉ!うちの魔法使い、モモカちゃんを忘れるなんて!とんだお馬鹿だったぜ、俺たちはよぉ!!!」


「お、おう!!!」


「よろしいーーー!!!」


言い合いしていく間にも、次々攻撃を叩き込んでいく。ケンジの<<スラッシュ>>と<<火斬>>。ミキジロウの<<スマッシュ>>。凄まじい威力の前にして、キラーモントの動きが段々と弱まっていく。だが、言い合いをするケンジはもう気づいていなかった。来る攻撃は回避するか剣で防ぎ、タイミングをみて攻撃を叩き込む。目の前の敵が倒れる前で。


ただ、魔物、キラーモントも生き物だ。間違いなく、生きている。この世の中に意地でもしがみついてやる、と抵抗を続けてくる。ミキジロウとケンジを狙い、鎌や、時には足を使ってケンジ達を削っていく。


致命傷だけは避け続けるケンジは、ほぼ捨て身の状態で特攻を続けた。何度から放たれる鎌の勢いで飛ばされたものの、すぐに起き上がって剣を振り続けた。


何度目かは剣を振り上げたか分からない。モモカのウィンドショットが飛ばなくなってきた頃、気が付けばケンジの体に無数の細かな傷跡ができていた。体中に土を被りに、腕の肌色はほとんど見当たらない。そして、ガクッ。と踏み込んだ足が体を支えきれずに崩れた。ケンジの体が地面へと倒れた。


「どうしたぁ、ケンジ!まだいけるだろ!!!」


反対側にいるミキジロウも、そこら中から血が流れているのが見えた。ミキジロウだって限界が近いはずなのに、まだ立ち上がって戦い続けている。


「当たり前だろぉ…」


吐いた声が自分でも分かるくらい弱々しかった。もう、声も聞こえてこない。軽い目眩も覚える。


―――生きるんだ、生きる…。こいつを倒して…。


キラーモントも限界が近い。機敏な動きはどこにもない、ケンジ達の攻撃を嫌がるように暴れ回っているだけだ。行ける。立ってくれ。立って剣を振るんだ。そうすれば、明日が見えるだろ。


ヨロヨロと立ち上がるケンジの体が、突然引き上げられた。


「大丈夫? ケンジ」


エナキの顔がすぐ横にあった。


「エナキ….お前こそ…」


「治療受けてきた。あとは僕達に任せてくれ」


「いや、エナキ。俺もやる、やるんだよ…」


ケンジは続けた。


「俺たちは、生きるんだよ」


エナキは何も言わなかった。コクリっとだけ頷いただけだった。エナキの支えはすぐ無くなり、いつの間にか飛んできた鎌をエナキが防いでいるのが見えた。多分、エナキが防いでいなければケンジはまた飛ばされていたに違いない。


「ケンジ、最後に一回、火斬をあいつの首元に頼む!あいつの首と胴体は細いから切断できる。そしたら、僕達の勝ちだ!!」


勝ち、それはつまり、明日も生き残れるのか。勝ち、その単語だけがケンジの体を動かした。


「今からアイツを地面に叩き落とす。そしたら、首元を狙え!!」


ケンジは頷いた。火斬を打てるほどの魔力は残っているのか怪しかった。


―――灯してください


また、あの声が頭の中で響いた気がした。心臓辺りから、再びケンジの体に熱が流れ込むのを感じた。不思議だ、あと1回だけなら打てる気がした。最後に。渾身の、一撃を。


「ミキ!今からモモカが魔法を出す、当たった後、君は右足を狙って前に倒して欲しい!!僕は左足を切る!」


どこからか「任せておけ!」というミキジロウの声がケンジに届いた。


「モモカ!」


「任せて!」


すぐ隣にはモモカがいて、詠唱を始めた。魔法は詠唱しなくても、そのイメージが頭の中にあれば発動できるらしい。普段詠唱しないモモカだから、久々に聞いた。魔法陣がケンジの足元まで伸びて、緑色の光が周りを、ケンジの体も包み込む。


ゆっくりと詠唱するのは、目の前に出来上がる球体をより力を込めているからであろう。風の力を包み込む、球体がケンジ達の体より膨張していく。


「シルフィの加護の中…この道歩み始めた我に…風の導きを与えたまえ…<<ウィンドショット>>!!!」


周りの空気を思う存分にかき乱しながら、…<<ウィンドショット>>は飛んでいった。その大きさは今日の中で1番大きい。そして、キラーモントに直撃して炸裂した。


「うぅ!!」


余波で、暴風は吹き荒れた。ケンジの顔に砂や枝なんかが襲いかかる。その中をエナキが突き進んでいく。放たれる黄色の粒子はケンジにも馴染みがあるスキルだ。

反対側のミキジロウには白い魔力がまるでイナズマのように拳から漏れ出ている。


「スマッシュ!」「スラッシュ!」


2人の攻撃がキラーモントの前足を捉え、エナキ側は足を切断し、ミキジロウは足を吹き飛す。


「ケンジ!!!」


エナキの呼ぶ声が聞こえる。今日何度目かのスキル発動の道に、魔力を流し込む。その流し方にもう迷いはない。魔力を流した箇所から背中に熱が伝わり始め、その熱さはケンジに火を連想させる。


「ケンジ」


モモカが横でケンジの体をさせてくれている。


「お願い…。倒してきて」


その顔はボロボロだった。髪も乱れ、頬には、拭った跡だろう、泥が付着している。ケンジは頷いた。頷くので精一杯だった。名もなき声が力を授け続けてくれるとはいえ、もう体が限界だったのだ。


キラーモントが倒れ込んだ。モモカのウィンドショットとまでは行かずとも、大きさから向かい風が発生した。それでも、ケンジにとっては合図になった。一歩、また一歩と進み始めた。


剣が火に包まれていく。日陰という存在を掻き消して。


空中へと、ケンジは飛び跳ねた。体は最高速度で最高点に達して、やがて降下していく。キラーモントの体に、スピードを挙げて吸い込まれていく。握る拳に力を、肺に十分の空気を溜めた。そして、顕になった首元に向かって、炎の剣を落とした。


「火斬!!!」


火花を挙げて、剣はキラーモントの首に刺さり、僅かに沈んだ。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


―――これで終わりにする。ここ、で首を落とす。


ケンジはありたっけの力と魔力を剣に込め続けた。

ドサァ。とキラーモントの頭部が地面に転がった音が聞こえた。

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