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想定通りに協力を拒む燈たち


魔力が固まるなりなんなりして。とにかく魔力の集合体が、やがて血や肉へ化して、そしてある生物へと成り変わる。それが魔物だ。だから魔力を多く集めれば集めるほどより凶暴化しより屈強な魔物が現れるというのが一般的な見解、というのは訓練時に教わった。


この理の始まりは昔、魔族が全世界に澄み渡るように放った巨大な魔法を発動したのをきっかけに魔物が生成されるようになった、と言い伝えられているらしい。もちろん、本当かどうかはケンジ達には分からないし、大して気にしてもいない。いずれにせよケンジが討伐しなくてはいけないのだから。



生誕した魔物は、生き物とさほど変わらない。構築されたその体の作りに合わせ、ある一つの生命として各々活動を開始する。そして、その行動の中には必ず習性というものが存在する。日当たりがいいところを好むのか好まないのか、水辺のあるところによくいるのかいないのか。食事のペースは1日に1食なのか、それとも7日に1食なのか。あるいは、草食なのか肉食なのか。


基本肉食だ。なぜなら、魔物というのは魔族が人間を殺戮するために編み出されたものだからだ。ドーバンがそう語っていたのをケンジは思い出していた。


「キラーモントの従来、アリーモントは大体日当たりのいい木の上にいる。葉に擬態し、やってきた獲物を鎌で引っ掛けて食すそうだ」


ダイゴが解説を始めた。


「うん? そのアリーモントっていうのが、強くなったのがキラーモントってことで合っている?」


「そうだ。魔物は魔力で生命を維持すると同時に、もし例外で大量の魔力が集まれば進化し、凶暴化する。キラーモントはアリーモントの進化形だ」


「モモカちゃん。それ、訓練の時に教えてもらったよ」


「いやー、頭の中がこんがらがっちゃって…」


ケンジ達のすぐ横には先ほどの巨大な魔物の足跡があった。掘り起こされた土の匂いを嗅ぎながら、その跡を追うようにして進んでいる。薙ぎ倒された木々達が、まるでケンジ達を誘導するように道を作ってくれているが、みんな道の端を歩いていた。道の真ん中を歩くには流石に目立ちすぎて、いつ魔物に襲われるか怖くて歩けたもんじゃないというのは選抜パーティだとしてもケンジ達と同じ考えのようだった。


「….」


一応周囲の警戒をしているケンジだが、あの魔物に怯えて遠くまで逃げたのか気配すら感じない。索敵スキルのような技を持ち合わせるエナキの方が長けているわけだから、やらなくてもいいことだとは思うが念の為だ。


ましては、今は選抜パーティもいるのだから心強いことこの上ない。ただ、どんな時でも手を抜かずにやるのがケンジの性格であった。


「手配書に掲載されるほど凶悪なったとはいえ、その習性までは変わらないはずだ」


エナキが頷いた。


「ケンジには話したけど、実はもう偵察に行ってきたんだ。確かに木の上にいて、じっと何かを待ち構えていた。合っていると思う」


「そうか。じゃあ、話が早いな」


「手伝ってもらう以上は、このくらいはしないとね」


「気にするな。風の噂だ」


「本当、随分役に立つ風だね。教えて欲しいくらいだよ」


さらに話を深掘りしていくと、アリーモントの習性として、縄張り意識も強く基本的には1匹で行動するらしい。一度得た自分の領域から動くことはほとんどないようだ。これは幸運なことで、移動するような魔物だったら探し回らなくちゃいけないがl、今回はその心配がなさそうだ。


そういった習性も加味して、エナキは手配書を選んだのかなとケンジは思った。


「注意するのは前足の鎌2つと、視野の広さ。真後ろから攻撃しても反応されるわ。あと飛行することかしら」


「飛行って飛ぶってこと?」


「そうよ。鳥のようにどこまでも飛んでいくわけじゃないけど、見失う程度には」


エナキが「それは計算外だったな...」と言った。確かに飛ばれでもしたら対応できるのは、ケンジ達のパーティ内だったら魔法が使えるモモカしかいない。ケンジとエナキとミキジロウは近距離での攻撃しか持ち合わせていない。


「初手で羽を落とすか、燃やすしかないな。属性で言えば、火属性が弱点だ。羽を燃やしでもすれば飛べることはできまい」


「なるほど。じゃあ、ケンジの出番だね」


「...俺の新しいスキルで、ってことか」


スキルは火斬かざんは火属性だった。

魔法やスキル、それだけなく生物全般にも言えることだが、属性が付与されていることがある。火、水、地、木などの数種類が存在し、それぞれ優劣がある。今回でいうと、火属性に弱いということはおそらくキラーモントという魔物自体に木属性が持ち合わされているということで違いない。


この優劣をうまく利用すれば、相手に害を与える度合いが違ってくるのだ。火属性を使えるのは、少なくともエナキ達は使えない。ここ数日で詰め込んだ甲斐があったということだ。


「一発目から倒してきてよ」


「無茶言うなよ…」


話が脱線すると思い、ケンジは適当に流した。


「木の上から地面に引き摺り下ろすのは私と、ミライちゃんと、モモカちゃんが担当するとしてーーー」


とティアが言いかけて、ダイゴが横槍を入れた。


「いや、俺たちは何も手伝わない」


「えっ?」


皆が歩みを止め、ダイゴを見た。


―――またか…。



ケンジにとってはついこのないだ経験したことと似ているなという変な感覚に包まれていた。予想外なことを言ってくる人たちの対処方法というべきか…。とりあえず話を聞くに限るとケンジは黙った。


知らない他のメンバーは寄ってたかってはダイゴに噛み付く。


「いやいやいや、ダイゴさん。ダイゴさん達は、俺たちを手伝いにやって来てくれたんじゃないんですか?」


「そうだ、ミキ。だが、実際に戦うのはエナキ、お前のパーティで戦え。俺たちは横で見ている」


「そんな…せっかく手伝ってくれると思ったのに…」


モモカが落胆した。ケンジもその気持ちは理解できなくない。てっきり自分たちの討伐を手伝ってくれるために来てくれてとても心強いと思っていたし、その反面一気に心細くなった。これはエナキも想定外のことではないだろうか、と思うとそうでもなくいつも通りの表情でダイゴを見ている。


「ダイゴ。見損なうわよ、素直に手伝ってあげればいいじゃない?そのために私たちが来たんでしょ?」


「ダイゴさん、私もティアさんと同じです。討伐書の魔物は私たちだってキツイ時はかなりキツイですし…。それにモモカ達は同じ燈のメンバーです、助け合った方がいいと思います……!」


ティアさんは優しく、ミライはやや怖気付いているも最後までダイゴに言い切った様子で説得してくれる。ただ、ダイゴは何も変わらなかった。ケンジが、あの洞窟で見たダイゴと一緒だった。王族相手で、かつ自分が記憶を失っていた上でも、何事も言わせないかのごとくあの堂々たる態度でダイゴは立って前を見据えたままだ。


「勘違いしないで欲しいが、横では見ている。だから、何かあれば助ける」


ティアが大きなため息をついた。またか、みたいに手で顔を覆っている。


「私が言っているのはさ、ダイゴ。そんな意地悪しないで、普通に助けてあげればいいじゃない。傍観するじゃなくて、私たちも一緒に戦う、って意味よ? それともエナキ君達がコウガの機嫌を損ねるようなことをしたのがそんなに嫌だったのかしら?」


やや皮肉めいた言い方だった。今もエナキはただ黙って見ている。これ以上は何かしら言わないといけないなとケンジは感じ、今1番心の中にあること伝えた。


「ダイゴさん、それはコウガさんの意見ですか?」


「...半分な」


半分。半分とはどういうことだろうか。

ダイゴはしばらく黙り込み、そしてこうケンジに告げてきた。


「最も、俺も奴の意見に賛成だ」


「…どういうことですか?」


「話は簡単だ。今回は俺たちの援助があって倒せても、次回はそうはいかない。なぜなら俺たちはいないからな。別に助けることに何も億劫さを感じない。ただ、今後のことを考えれば、今いるこの4人での実践経験をより積んでおくべくだろう」


まるで台本を用意していたかのようにダイゴがスラスラと話していく。


「お前達も気づいたからだと思うが、生活を安定するほどの金銭を集めるには単純に魔物を退治していくだけじゃやってはいけない。人が困り果て、お金を払ってでもソイツを討伐して欲しい、そんな奴を相手にしていかなければこの先は生き残れん。俺たちの肩書きは義勇兵だ。戦闘を欲していないところに闇雲に向かっても、商売にならない」


言葉の暴力、とでもいうべきか。誰も、エナキも、ダイゴに反論するものはいなかった。


ケンジは密かに学んでいた。

こういう人に反論したところで簡単に意見を曲げるわけじゃないから言ったところで仕方がないということを…。話はまだ続いているらしい。


「つまりだ。戦闘の腕を商売にしているお前達義勇兵が、一時的な協力者のおかげで今日を凌いだところで明日も越えられるかどうかは怪しい。稼ぐ力はお前達で身につけるべきだ、それが俺の考えだ」


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