卓越と合流する燈たち
投稿する順番が間違ってました...こちらが11話目です
選抜パーティが 来ないのではないのか。結論から言うと取り越し苦労であった。いや、エナキがリーダー格であるコウガを怒らせるようなことをしなければ心配などしなくても良かったのだが......。
ただ、物語るかのように選抜パーティの全員がここにいるわけではなかった。そもそもコウガ率いる選抜パーティは全員で6人だったはずだった。正直、そこら辺の記憶が曖昧である。際だっていたコウガと、他のメンバーがケンジの中で大きすぎて全員を覚えているわけではなかった。
少なくとも、今、コウガの姿はここにはない。やってきたのは3人で、幸いにもケンジは全員と顔見知りであった。つまり、ケンジが知らないメンバーは残り2人となる。
「あれはなんだったわけ?」
エナキがキレ気味にダイゴに言った。
「ここら辺の主だそうだ、この時期になると目覚めるらしい」
やってきた1人はダイゴであった。相変わらずの口調である。とても端的で、無駄がない。人によっては威圧的に受け取ってしまうだろうな、と初めは思っていた。
ダイゴは、思いの外優しいところもあるとケンジは知っていた。今もダイゴを見るなり、モモカとミキジロウが久しぶりの再会に喜んでいる。ケンジも同じで二人離れたところから、頭を下げる。「変わらなそうで何よりだ」と気難しそうな顔が少しだけ崩れた。
格好もそう変わらない。同じナイフを3本ほど腰に携え、背中には自身の等身ほどの大きな斧を背負っている。ダイゴに斧を扱う才能は元々なかったが、訓練時に会得したようで、己の練習次第では他の武器も扱えるようになるらしい。
防具は肘・膝あたりにそれぞれ当てを装備しているがほとんど身につけない。色々つけると機動力が失われるとのことだ。スタイルそのものは変わらないものの、各々の装備が見た目からして質の良さそうなモノであるのはなんとなく見えた。
「そもそも魔物なのかもわかんなかったよ」
「変異種だそうだ。その中でも特別に、な。お前らが今日狩ろうとしている魔物と理屈は同じだ。俺たちが知ったのもここ最近だ。風の噂で、な」
「風の噂ね…」
「てっきりやられちゃったと慌ててきたけど、この様子だと上手くやったみたいね」
「そこの窪みがなければ見つかっていただろうね」
エナキ達が話しているのをなんとなく見ていた。ダイゴの横にはティアがいた。格好はこの前あった時となんら変わりはないが、ところどころ擦り傷や打撲のような跡が素肌から覗かせていた。
「来たのは3人?」
軽々しく聞くエナキに嫌気が指したのか、ダイゴが大きなため息をついた。
「お前のおかげでな……一体何があった? 何があったか知らんが『奴』ならご立腹だ。もうお前の顔は見たくもないだと、おかげで誰も手がつけられん」
「そう? 私はいい薬だと思うけどね」
エナキ達の会話グループの他に、ケンジはもう一つの会話グループを見た。
―――ミライ……。
そこに、ミライがいた。魔法使いといえど、体はある程度の鍛えてあるのか体全体に筋肉がついたように逞しく見える。長い黒髪も腰の辺りまで成長し、特に結ぶことなく真っ直ぐと伸びている。先端が淡い緑色の杖を持ち、魔法使いらしい帽子。衣装は夜空をモチーフにしているのだろう、上から下へとグラデーションのかかった紺色の中に、星をイメージしていると思われる小さな白点がたくさんあった。
その体、衣装、全てを求めるようにモモカが「怖かったよー」とミライを抱きしめており、ミライはというと子供をあやすようにモモカの頭を撫でていた。モモカとミライはここに召喚された日に知り合ったというのは聞いていた。
不意にミライと目があった。少し大きな瞳に捉えられただけで、ケンジの体は少し硬直した。ミライは少し微笑んでくれてから手を振ってくれた。ケンジも、手を振った。まるで真似をするかのように。
「で、どうなんだよ?」
「何が?」
ミキジロウが耳打ちをしてくる。
「何が? じゃねぇよお前。お前とミライちゃんだよ、どうだ?何か進展あったか?」
ーーー俺は、ミライを知っている......。
初めてミライを見た時から、そう感じていた。
どうしてミライを知っていると感じたのか理由を必死に探ったが、はっきりとした答えが見つかったわけではなかった。けれど、うっすらとだが見えてきたものがケンジの中にあった。
まず、これは前々から薄々気づいて今回で確信へと変わったのだが、別にケンジは何もミライという人間について、事細かに知っているわけではなかったのだ。好きな食べ物はなにか、趣味はなにかとか。ただ、ケンジの中にあるのは『ミライという人間を知っている』という、その感覚だけだった。
これは随分不思議な話であり、おかしい話である。ミライを知っている、などと堂々と宣言しており、しかし後のことは何も知らないなんて。これは果たしてケンジはミライの知人であると言えるだろうか。言えるわけがない。
ただ、こういった不思議で、おかしい話は今に始まったわけではない。そのことを前提に考えると、ケンジはある一つの説に辿り着くことができたのだ。
その説とはこうだ。つまり、召喚前の世界でケンジとミライは知り合いだった。それが召喚時の影響により、ミライはケンジに対する全ての記憶を失ってしまった。対して、ケンジはほぼ完璧に失いかけってしまったものの、『ミライの知っている』という実に大雑把なものだけが記憶に留まったのではないだろうか。
枠組みだけが残り、中身はない。この事象をこんな風に説明することはできないだろうか。
「何も。これといった進展はないよ」
この考えを今話す気になれなかった。生死を分ける戦いの前にして、できる限り邪念は払いたいのがケンジのやり方だった。
ちなみに、ケンジは包み隠すことなく『自分はミライの知り合いではないか』というのをミキジロウやミライ本人にも話している。最初は怪訝そうな顔をされるも、繰り返すが、おかしな話は今に始まったことではない。もしかしたらこの世界に召喚される前は、本当に知り合いだったのかもしれないとどちらかというと前向きに捉えられた。
「なぁなぁ。もちろん、お前の言ったこと信じてるぜ。ただよ...俺的にちょーっと違うんじゃないかなって思ってるんだよ」
ミキジロウがニヤニヤしながら、耳打ちをしてきた。
「それ、一目惚れじゃねぇ?」
「バッ...!!!」
ケンジは反射的に言い返した。予想外の問いにミキジロウのペースとなる。
「そんなんじゃねぇよ!」
「本当か〜?けどよ、あれから考えたけどよ、いや別にケンジを疑っているわけじゃねぇけどよ、やっぱりさ、やーーっぱりおかしいと思っちゃうんだよ。だって、みんな召喚前の記憶がない中で、なんでお前だけその記憶が残ってんだよ?」
「だから、それは俺が聞きたいってこの前も話しただろ?」
「本当か?」
「本当だ!」
「その剣に、誓えるか」
「誓えるよ!」
「いや、嘘だな。お前の目ん玉がキョロキョロと泳いでるぜぇ」
「それはお前が馬鹿なことをーーー」
「いや、俺も男だから分かるぜ。ミライちゃんは上玉だよ、上玉。あれだけ可愛いければよぉ、記憶の1つや2つ間違ったってしょうがねぇよ。だからよぉ、思っちゃうんだよなー、このミキジロウ。ケンジはよ、本当は皆と同じように記憶はないけど、あまりのミライちゃんの可愛さに『あれ、もしかしたら俺。会ったことあんじゃね。そうだ、そうだよ違いねぇ』って脳みそがよ、狂っちまったんじゃねぇか、て」
そんなわけがない、と思ったが、そうなのかもしれない。そうじゃないと言い返せる自信はなかった。なんて返事をしようかと考えていると、離れたところから別の声がとんできた。
「お取り込み中のところ悪いんだけどさ」
ケンジは顔を上げた。エナキだった。それどこじゃない。ダイゴさんやティア、モモカ。全員がこちらを見ている。もちろん、ミライまで。
「そろそろ移動するから」
ケンジとミキジロウを置いて、ゾロゾロと皆が移動し始める。すれ違いざま、モモカがミライを守るようにしてケンジ達にこう言った。
「さいてー」