70話京都散策
黎人は京都、祇園の花街である人物と待ち合わせをしていた。
時間の5分ほど前に待ち合わせ場所に辿り着くと、そこには雰囲気に似つかわしくない出たちの男が扇子を扇ぎながら待っていた。
「レイ坊。こっちこっち!」
筋肉で引き締まった体にオレンジ色のアロハシャツに丸いサングラスの男。坂井五郎が空いてる手で手招きしている。
「いやあ。聞いてるで。なんや面白い事になってるみたいやん。弟子が2人だって?」
「マリアから?」
「そうや。飲みに誘われたかと思ったら5時間も話に付き合わされたわ」
「五郎、そのエセ関西弁は何とかならないのか?」
「郷に行っては郷に従えって言うやろ?あ、ここは京都か」
そう言って五郎は豪快に笑った。
とりあえず、五郎が予約を入れた店へと入る。
「まあ俺が来たのは忠告だな。
海外から日本に冒険者が多く来ている。表向きはこの間の階級進化事件の視察か身分を隠しての観光。
実際はお前への接触だろうな。なんか、日本の対応が問題になってるらしい。
だが、お前に辿り着ける冒険者は何人いるんだろうな?
冒険者ゼロは今の個人情報保護のシステムを利用して春風黎人とはほぼほぼ切り離されていた。俺でもお前が辞めてすぐに探せなかった位だからな」
五郎はニヤリと笑って目の前の味噌田楽に齧り付いた。
「あの時はマリアに聞けば連絡取れただろう?まあ急な出来事だったから冒険者免許の連絡システムが使えなくなるのを見越して連絡先を伝えておかなかった俺も悪いけどさ」
黎人は苦笑しながらほぐしていたサワラの西京焼きを一口、それから冷酒を飲み干した。
「まあ冒険者を辞める事を見越して冒険者名で活動していたお前にしちゃ珍しいミスだったな。
ま、そんな事よりだ、レイ坊。
最近の色恋はどうなんだよ、なあ」
堅苦しい話は終わって他愛の無い話をしながら美味い飯を頂く。
1軒目を終えて、2軒目に行きたいところだが、五郎はこれから行くところがあるからと言って1軒目でお開きとなった。
黎人は、泊まっている旅館に戻る時間も早かった為、1人でもう1軒行く事にする。
酒蔵を改装した雰囲気いいバーがあると旅館の女将さんに聞いていたのでそこへ行く事にする。
カウンターに座って京都のお酒をとバーテンダーに注文する。
酒蔵を改装しただけあって、バーだが日本酒も多く取り揃えているそうだ。
出されたのは日本酒のロック。
アルコールが19%と高めの日本酒だが、鼻に抜ける香りが芳醇で、ロックでサラッと飲むのがオススメだそうだ。
黎人はそれを物思いに耽りながらゆっくりと頂いた。
ゆっくりと過ごして店を出る時、隣に居た客がシクシクと泣いているのに気づいた。
泣きたい夜もあるのだろうな。マスターに悩みを話すその姿を見ながら、邪魔しない様に静かに店を出た。
次の日、黎人は京都の街を散策していた。
京都観光を1人でするのは初めてな為、新鮮な気持ちで見て回っている。
嵐山の竹林を登って、降りてきた時、ある方向から悲鳴が聞こえてきた。
悲鳴が聞こえた方には人だかりが出来ていて、喧嘩が起こっているようだ。
黎人は関わり合いになる気は無かったので、そのまま通り過ぎようするが、喧嘩の中心から魔力の揺らぎを感じた。
微々たるものだったが、それは見逃していいものではなかった。
人混みをすり抜ける様に割って入り、振り上げていた腕を掴んだ。
「一般人が見ている。これ以上は洒落にならなくなるぞ」
黎人がそう耳打ちすると、ウデを振り上げていた男は、黎人を睨むと腕を振り解いた。
「ふん、お前の様な負け犬が俺達に付きまとうなど許さん!もう俺にもあいつにも近づくな!」
そう捨て台詞を吐いて去って行った。
間に入った手前、殴られて倒れていた男を助け起こす為に手を差し出した。
「あ、ありがとうございます」
「あれ?」
倒れていたのは、昨日バーで泣いていた青年だった。
「とりあえず、人の目もあるし立ち上がってどこか移動しましょうか」
殴られた為か顔に青たんが出来てしまっている青年を助け起こし、治療の為に場所を移動するのだった。




