56話とある日の冒険者ギルド会議休憩
モニターが消えて、ふう。と溜息を吐いた。
全世界でのオンライン会議をするのは久しぶりだが、やはり、中国とアメリカの意見は対立する。
同じ世界ギルドなので、方針的には同じはずなのだが、支部によって所属冒険者の特色の違いがある為、各支部自分の支部のやりやすい様に意見を通そうとする。
今回の事に関しても、揉めているのはSSSランクの扱いだ。
SSSは階級進化を倒した冒険者に与えられる特別な称号で春風さんが引退した今、世界に12人しか居ない。
それに、春風さんの様に階級進化を単独討伐したのはその内2人。
それ以外は複数人で討伐し、称号を得た冒険者なのだ。
イギリスの例をとっても今回の様に早期解決出来なければ被害が大きくなる事は明らかで、各国に満足なSSS冒険者を配置できない今、引退した春風さんの様なSSS冒険者に光が当たるのも当然かと思う。
「しかし、引退した冒険者の復帰。とは行かなくとも災害の際に命の危険を犯しての現場復帰。会議で決まったとしても引退した方が受け入れてくれるとは思わないんだけどねえ」
「そこは、受け入れてもらうのではなく強制するべきでは?過去の赤紙の様に」
「神崎君、僕達は冒険者に命令できる立場ではないよ」
「しかし、この場合は仕方がないのでは?」
仕方がない。で済ませてしまってはいけないと思う。
情に訴えて、その時ばかりはと協力をお願いする事は出来るだろう。
しかし、今回のケースは単独討伐可能な春風さんであり、引退後約半年といったブランクがあまりないという状況が重なったに過ぎない。
これが、昔に引退した冒険者で腕が落ちているにも関わらずにお願いした末に命を落とそうものならそれはそれで問題である。
「春風さんに、冒険者復帰をお願いしてみるか?」
俺がそう漏らしたのはただの諦めの言葉だった。
しかし、隣に座っていた神崎の体がビクリと震えた。
「それは、難しいかと思いますが…」
「やはり無理だと思うか?しかし、そうなるとまずこの話し合いに意味があるのかと言いたくなるな」
俺はハハハと笑いながら空気を和ませこうとした。
「しかし、一度聞いてみるのは有りかも知れないですよね、こうやって本人のいない所で決めているのではなく、もし引退したSSS冒険者の方々が今回の様な階級進化の場合には協力してもらえるのかどうか、ギルド側だけでは決められません」
英の意見に俺は頷くが、神崎はそこに暗い様子で話し始めた。
「実は、私の所で処理していたのですが、春風さんは手違いによりブラックリスト入りしており、冒険者復帰をして頂けないのが現状になります…」
会議室に居た全員が絶句した。
日本最強、イギリスの英雄、強いては今回の騒動の英雄がブラックリスト入りとはどう言う事か理解できなかった。
「神崎君、詳しく説明しなさい」
「はい…」
内容は想像のさらに上を行くものだった。
まず、冒険者ゼロの引退は、自分の権力を勘違いしたギルド職員によって、免許の返納ではなく、免許が剥奪されており、その後、ブラックリストまで入れられて冒険者免許の復帰が難しい事。
春風黎人本人が、自分が引退を希み、冒険者への復帰を望まない事。そして、今回の引退に関わった職員を訴えない事。
などの理由で、日本支部に1番被害が少ない方法で、これに対応した神崎、東京の支部や葛飾区支部のギルドマスターが内々で極力問題にならない様に処理していたとの事だ。
「なぜ、俺にちゃんとした報告を入れなかった?」
「それは、こうした方がギルドの為になると思いまして…」
「田中、英、お前たちは聞いて来たのか?」
俺の質問に田中と英の両名は首を横に振った。
「何の為にサブマスターが3人もいると思っている?俺に上げないまでも、相談してどう対処するかを決める為だ。今回の事は、神崎の独断で決めていい問題ではない。ギルドは、ギルドの利益だけ考えればいいのではなく、時には、冒険者に寄り添う事も必要だ。
なぜなら、ギルドと冒険者は言うなれば元請けと下請けの関係だ。元請けだからと下請けに無理を効かせれば下請けは離れていき、結果、こちらも損をする事になるからだ。
今回の件は後に再調査をするとして、先ずはこの会議で世界ギルドの面々に説明する。
…はぁ。俺の首だけでは足りないぞ、これは」
休憩時間のタイムアップだ。
俺は覚悟を決めて、会議の再開をまった。




