55話とある日の冒険者ギルド会議1
__世界ギルド日本支部
会議室では、先日起こったGランクダンジョンの階級進化についての話し合いがされていた。
ギルドマスター加藤播が円卓の真ん中に座り、対面には大量のモニターが並び、ネットでの会議が行われている。
この日本支部では、加藤播の他に、3人のサブマスターと、問題の現象が起こった大須ギルドのマスターが円卓に座っている。
大須ギルドのマスターが、汗をハンカチで拭いながら、今回起こった事や、現在の状況について説明している。
世界初S、Aランク以外、それも一般人の入場がメインのGランクダンジョンでの階級進化。
一応、極秘ではあるが、階級進化の研究も進んでおり、AランクダンジョンのボスをSランク相当と仮定して、一定の魔力量が核である魔石に吸収され、魔石が変革する時、それに伴って階級進化が起こる。
つまり、魔物もなんらかの形で冒険者の力を吸収しており、討伐されずに生き延びている個体が、魔石に合わせて肉体を変化させているのではないか?と言う研究結果が上がって来ている。
ならなぜ、今回の様な事故が起こったのか。
「えー、今回回収された魔石は討伐者の吸収辞退により、ギルド側が購入して日本支部に協力いただき、調べていただきました。
その結果、魔石は砕けた状態でしたが、1番近い魔物はヘルガルン。つまり、Aランクダンジョンの魔物であると予想されます。しかし、討伐者の証言によると、吸血鬼の様な人型に羽が生えた見た目で、亜竜種とされるヘルガルンと似ても似つかないとのことです。
この度、早期解決できた事はたまたま居合わせた、先日引退された元冒険者ゼロのおかげです」
大須ギルドのマスターが淡々と説明をしていく。
モニターの向こうの反応は様々だ。しかし、被害が大きくならなかった事に安堵しているのは分かる。俺も、同じだからな。
春風さんが居てくれて本当に良かった。
「よって、今回の事故は自然発生するものではなく、人為的な物を想定せざるを得ないと思われます」
そう締めくくって、大須ギルドのマスターは着席する。
まとめるとこうだ。
今回の事故は事故ではなく、故意に行われた事件の可能性がある。
たまたま居合わせたゼロによって被害を最小限に事態を収束させる事ができた。
「…これほど早く階級進化が起こるものかと思いましたが、人為的な可能性があるとは。
なんにしても、ゼロには感謝しなければ」
沈黙を破ったのはイギリス支部のギルドマスターだった。あそこは過去に、春風さんの力を借りて階級進化を解決した過去がある。
その時の被害を考えると、長引けばどうなっていたかが1番分かる人物だと言える。
「しかし、今回は被害が最小限に済んだからまだ良いが、これから同じ事が起こらんとも限らん。引退したとはいえ、ゼロを含め、これから引退していくSSSランク冒険者には協力を仰げる様なシステムを考えた方が良いのではないか?」
そう提案したのは中国支部のギルドマスター。
中国は人口が多い為、日本の様に引退する冒険者を引き止めたりはしていない。
と言うより、日本が冒険者を引き留めている事が特別とも言える。人口の少ない島国な為、引き留めを行わなければ、冒険者の質を上げなければ各国に後れをとる為だ。
逆に、中国は人口が多く、数の力で魔石を稼いでいる為、高ランク冒険者と言われるSランクになる前に稼いで引退してしまう冒険者が多い。
なので、今回日本で起こった様な階級進化が起こってしまえば他国に協力を要請するしかない。だから、動けるSSSは多い方がいいと考えているのだろう。
「引退後、緊急時に協力を仰ぐですか。引退された冒険者の事を思えば、危険と分かってお願いするのもどうかと思いますね」
この発言はアメリカ支部のギルドマスター。
アメリカは人口もさることながら、冒険者の質も高くSSS冒険者が2人在籍する。
この2人は血気盛んで生涯冒険者と公言している為、不安は少ないのだろう。
確かに、自分は冒険者の引退引き止めをしている側だが、危険が伴う仕事である冒険者の引退を引き止めるのは心苦しい。
その結果、大怪我を負う冒険者もいる訳だから、かなりブラックな仕事だと思う。
さらに、引退した冒険者に協力を仰ぐと言っているが、それが強制だった場合、冒険者が反発する事も考えなければいけないだろう。
話は平行線のまま、一旦各ギルドで意見をまとめる為に1時間の休憩を取る事になった。




