53話両親
離婚が成立して、私は東京に戻って来た。
実家に帰って来た私を見て、両親は泣いてくれた。
無事に戻って来てくれて良かったと、私の無事を喜んでくれた。
そして、両親の思いを聞いた。
私の結婚をすぐに認めてくれたのは、克樹さんが公務員でしっかりとした職に就いていたのもあるが、私の元カレ、黎人と比較しての事だった。
克樹さんが言っていた様な冒険者は信用できないといった話ではなかった。
冒険者は辛く、大変な仕事だ。
命の危険が付き纏い、無茶な探索をした冒険者が亡くなったなんてニュースが、昔は日常茶飯事だったみたい。
今でこそギルドが経験則から管理しているからか、そういう話はあまり聞かなかったが、両親の親世代にはそういった理由で未亡人になった人や、両親を亡くした子供が多かったそうだ。
だから、高校の頃、私の彼氏が冒険者だって知った時は心配したそうだ。そして、私が大学まで黎人とずっと付き合っていて、両親はこのまま結婚するかも知れないと思っていたそう。
ただ、両親にとって心配だったのは、冒険者は危険な仕事で、もし、私を置いて黎人が早死にした時に私が悲しむ姿を見たくない。とか、もしかして、私も冒険者になって、命の危険があるのではないかといった不安があったそうだ。
だから、その心配がない克樹さんとの結婚には賛成だったみたい。
だから、私がダンジョンの事故に巻き込まれたと聞いた時は気が気じゃなかったそうだ。
「生きていてくれて本当によかった」
両親が言ったその言葉に、私も一緒に泣いた。
命があるだけ儲け物
看護師さんもそう言っていたが、世間はそう甘くなかった。
ここに帰って来る新幹線や道のりの間に、人は私の顔を見て、私を避けた。
コンビニで飲み物を買うだけでも私の傷をジロジロと見ていた。
多分、この傷もあって更に仕事を探すのは難しくなるだろう。
そう両親も思ったのか、しばらくは家でゆっくりしていろと言ってくれた。
その日の夜、私は母と一緒に台所に立った。
自分にできる事から始めようと思い、母に料理を教えて欲しいと頼んだのだ。
母は優しく笑って頷いてくれた。
ジャガイモの芽が食べられない事を初めて知った。
あの時、焦がさずに出来てしまっていたら、克樹さんに食あたりさせていたかも知れない。
結婚する前に、母にこうやってちゃんと教えてもらっておけば良かったな。と後悔して涙が出て来たが、次に切った玉ねぎの所為にして誤魔化した。その玉ねぎも、切り方が分からずに母に教えられながら切った。
出来上がった肉じゃがに入ったジャガイモも、どれが母のでどれが私のか分かるくらい不格好だ。
それでも、父は喜んで食べてくれた。
母に教えてもらった味付けは、不恰好な私のジャガイモでも、懐かしい味がした。
___________________________________________
唸るエンジン、遠心力に耐えてギシギシと軋むサスペンション。
山道をボロい商業車が駆け抜けていく。
「流石に長距離は怖いわね」
「ギシギシ言ってるよ、雫」
「お金があれば、新幹線なんだけどね!」
私達は今、ボロボロの軽で東京へ向かっている。
親友がダンジョンの事故に合って、離婚して、肉体的にも精神的にもボロボロだから、あってあげてほしいと親友の両親から連絡を貰ったからだ。
親友にあいつを紹介したのはあたしだ。
魔石を吸収して、物事をちゃんと考える様になってから考えると、あいつの言ってる事はおかしかったのが分かる。
そんなあいつを紹介して、親友の人生を壊したのはあたしだ。
ずっと、謝らないとと思っていた。
本当はこうなる前にあたしは動かないといけなかったんだ。
だけど、連絡がつかないのを良いことに先延ばしにしてしまった。
あたしは、雫に救ってもらった。
この道を選んで良かったと思っている。
だから、おこがましいかも知れないけれど、あたしも、香織の力になりたい。
また3人で笑って飲みに行けるように。
私はそう願ってガタガタと揺れる助手席に座っていた。
カクヨムにて100話ほど先読み掲載してます。




