51連絡
会社に出社して、何もない時間をただただ過ごす。
今までやって来た仕事は取り上げられ、ただただ暇な時間を過ごす。
隣の席の同僚はイヤホンをつけてスマホで動画を見ていたり、部長なんかは机で大口を開けて寝こけている。
俺は、この空間が嫌いだった。
自分がこの職場でいらない存在だと自覚させられる様で嫌だった。
居るのが辛くなって、自動販売機のある休息スペースで時間を潰したりもした。
他部署の休憩時間などと被ってしまうと白い目で見られそうなので時間を気にしながら椅子に座りながらただぼうっと時間が過ぎるのを待った。
そんな日々を過ごしていたある日、誰からも相手にされない俺に声をかけてくれた女性が居た。
正直綺麗ではない地味目な顔、スタイルも崩れて来ている年上の女性だった。
その女性は聞き上手で、俺はついつい愚痴を漏らしてしまったのだが、彼女は嫌がりもせずに優しく相槌をうち、聞いてくれた。
仕事の愚痴、家庭の愚痴。彼女は何も言わずに俺を肯定してくれた。
そんなある日、彼女に食事に誘われた。
家に帰っても、あるのは惣菜ばかり、妻との間に漂う空気も、正直良くはなかった。
『魔が差した』
とでも表現したらいいのだろうか?
俺は彼女の誘いにのって食事へ行った。
とても、楽しい食事だった。
久々の外食だったと言うのもあるのかもしれないが、妻の様に美人ではない女性だった為か、肩肘張らない店に行き、食事と会話を楽しんだ。
妻とのデートの時には綺麗な彼女を自分のものにしたいと思う欲で動いていたが、こう言った見栄を張らない《《デート》》も楽しいと思った。
しばらくすると、彼女に会うのが楽しみになり、仕事に行く事が苦ではなくなっていた。
正直、結婚は失敗したと思う。
よく、付き合うのと結婚は違うと言うが、その通りで、付き合っている時は隣に美人の彼女が居る事が自慢だった。
彼女を落とす為に当時、彼女に居た彼氏の印象が悪くなる様にゆっくりと時間をかけて落としていった。
彼女は社会人になったばかりで、彼との時間が少なくなり、彼に蔑ろにされているのではないかと悩んでいたので相談に乗るふりをして心を離れさせるのは簡単だった。
その彼が、冒険者だったのもあって、冒険者の悪い噂を刷り込んだ事も効果覿面だった。
しかし、結婚してみて思ったが、あんなに浪費家で顔だけの女だとは思いもしなかった。
しかも、あいつが言っていた底辺冒険者がまさかゼロだなんて。
いや、考えるのはやめよう。
そんな付き合っている時はステータスだった綺麗な彼女は、働きもしない最低な妻になった。
それを思うと、会社で会う彼女は、綺麗ではないが、癒しをくれる。
家庭を築くにはこう言う女性がいいのだろうと今更ながら思う。
俺はそんな彼女に惹かれ、いつしか自分から食事に誘う様になっていた。
彼女の話も聞く様になり、彼女もまた既婚者だった。
彼女の旦那は仕事人間で、家庭を蔑ろにする最低人間の様だ。
俺と彼女は家庭に問題がある者同士、愚痴を言い合いながら関係をつづけた。
今朝、妻と大喧嘩した。
ついに、妻の浪費癖や態度に文句を言ってしまったのだ。
一つ口から出たら溜まっていた鬱憤が止まらなかった。
実は有能だった元彼と比べて俺を見下しているのだろうと、感じていた全てを吐き出して家を飛び出して来た。
そして、会社に着くなり休息スペースへ向かい、彼女に癒しを求めた。
彼女は黙って全てを聞いてくれた。
そして、彼女もまた、家で家族に詰られて、今日は帰りたくないのだとか。
その日の夜は2人でまた食事へと行った。
そして、ついにいけない事とは分かっていつつ、一線を越え、体を重ねた。
今日は、彼女の包容力に身を任せたかった。
翌朝、起きると横で眠る彼女の事を愛おしく感じた。
スマホを見ると、知らない電話番号からの着信が数件あった。留守電も入っている様だった。
昨日は、現実を忘れたくてスマホの電源を落としていた為に気づかなかった。
彼女が起きた様で、少し会話をして、着替えてから外へ出た。
流石に一緒に出社するのは躊躇われ、時間差で別々に出社する事にした。
ホテル代は彼女に渡して来た。
ギルドまでの道中、ふと思い出して留守電を聞いた。
病院からの電話で、妻が入院しているとか。
慌てて電話すると、命に別状はないがとりあえず来てくれとの事だ。
重症なのか?事故にでもあったのか?本当に、妻は迷惑しかかけない。
一応はギルドに連絡を入れて、妻が入院する病院へと向かった。
カクヨムにて100話ほど先読み掲載してます。




