49話別れた道
子供の頃から、周りには馴染めなかった。
理由は簡単で、周りとの能力に差がありすぎたから。
春風黎人の父親はCランクの冒険者だった。
そして、手に入れた魔石を吸収する際は、家で吸収してそのまま寝ると言う方法を取っていた。昔はその方が、吸収だけに体力を使える為、吸収効率がいいとされていたからだ。
黎人は、お風呂上がりで誰も見ていないタイミングに、父親の真似をして魔石の吸収をしてしまった。
父親が成長の為に残して来たCランクの高純度の魔石を数個。
魔石の早期吸収は命に関わるとされている。だから冒険者免許は16歳からしか取れないのだ。
この時、黎人の命に別状はなかった。しかし、急激なステータスの成長によって子供らしさが失われてしまった。
だから、子供の頃から黎人の周りには友達がいない。
黎人を遊びに誘っても、絶対に黎人が勝ってしまうし、ボール遊び等は相手の子供に怪我をさせてしまう。
勉強も、同年代の子達とは比べられないほどの秀才だった。
必然的に、周りの子供は黎人を避けた。
なにを話しても、子供に興味がない大人の様な機械的な反応なのを気味悪がったのもあるだろう。
そんな黎人に声をかける人が現れたのは高校に入ってからだ。
高校には伝えていた為、教師から漏れたのだろうが、亡くなった父親に憧れて冒険者免許を取った事が高校中に知れ渡ってしまったのだ。
せっかく中学までの同級生達と別れて新しい同級生に変わったのだが、その噂により、また距離を置かれる様になってしまったのだ。
そんな時、ただ1人、黎人に声をかけてきた人物。それが香織だった。
友達の多い香織だったが、昼などに1人でご飯を食べている時なんかに話しかけてくれる様になった。
話の内容なんかは、たわいもない話で、主に、香織が日常の話をしたり、ドラマ等テレビの話をしているのを聞いているだけだったが、今までろくに友達という物ができた事がない黎人にとって、楽しい時間だった。
しばらくして、香織と付き合う様になった。
この人に釣り合う人間になろう。大切にしよう。そう思った。
彼女の為を思って、冒険者の活動にも身が入った。失敗もしたが、そこから仲間もたくさんできた。
彼女に不自由をさせない様に、稼げるだけ稼いだ。
出かける時も、なるだけいい所に連れて行ってあげたかったし、彼女のリクエストには必ず応えた。
初めて実家に呼んだ時は柄にもなく緊張したのを覚えている。
大学を卒業する頃には、彼女にプロポーズをしようと思った。
この頃から、Aランクだった冒険者ランクを上げて、働かなくていいくらいまで稼いだら、冒険者の引退と共に彼女にプロポーズをしようと決めた。
社会人になって、彼女も仕事があって、会う機会が減ったが、たまの旅行は奮発した物にして、喜んでもらえたと思う。
全てが整ってプロポーズの日。
俺は彼女に振られた。
何処かですれ違っていた様で、彼女は俺よりも素敵な人を見つけてしまった様だ。
彼女の事を、幸せにしたかった。
でも、自分よりも幸せにしてくれる人を見つけてしまったのだと。そう思って身を引いた。
それがなぜ、彼女はダンジョンでボロボロになっているのだろう?
___いと、れ__と
「黎人!しっかりしなさい!」
レベッカの言葉で、俺は、目の前の事から目を逸らして、昔の事を走馬灯の様に考えていた所から戻ってきた。
目の前のベッドには、ボロボロの香織が寝かされていて、レベッカが必死に治療を行なってくれていた。
「一応、大きい傷は全て塞いだ。多分輸血していけば命は助かるだろう。
だけど、身体と顔の傷は残るね。綺麗な顔してるけど、命が助かっただけでもよしとしてもらうしかないね。
黎人、取り乱し方が尋常じゃなかったけど、知り合い?」
「…ああ。元彼女」
「半年前に振られたって言う?…なら、ちょっとくらい手をぬけばよかったかしら?」
「おい!」
「冗談よ。あんた、この子が起きるまでここに居る?」
「いや、香織の旦那にも連絡が行くだろう。
俺は、いない方がいい」
「そう。なら、あんたは他にやらなくちゃいけない事があるでしょう?外で、紫音が待ってるわよ」
俺とレベッカは話の後、香織の事をギルドの職員と医者に任せて部屋を後にした。
外には紫音が座って待っていた。
「黎人さん!」
紫音が立ったのを見て、今までの自分がどれだけ余裕が無かったのかを悟った。
「紫音、良くやったな」
俺は自分の足で立ち上がった紫音の頭をガシガシと撫でた。
「痛いですよ、黎人さん!でも、やりました、私!」
紫音の笑顔に、癒されている自分がいる。
「それじゃ、お祝いに飯と言いたいところだけど、アイツを倒さないとだな」
「無理しちゃって。でも、あなたしかできない。行けるの?」
「ああ。帰って来たら、紫音のお祝いだからな!」
そう言って、黎人はゲートへ向かう。
ゲートは入場規制されていて、ギルド内は日本初の階級進化に慌ただしくしているが、イギリスのSランクレベッカと、愛知第一ギルドのギルドマスターと共に来た《黄金の鯨雲》のメンバーによって黎人の正体がギルドマスターへと伝えられ、この事態に唯一対処できるであろう黎人に全て託されている為、ゲートの入場は許可されている。
「それじゃ、紫音、行ってくるな!レベッカも」
そう言って紫音やレベッカ、織田やギルドマスターが見守る中、黎人はゲートの中へと消えた。
紫音が拳をギュッと握っているのを見てレベッカは紫音の手を上から握った。
「大丈夫よ。私が憧れた最強の冒険者様だもの。きっとすぐ帰ってくるから何処のお店に行きたいか考えて待ってましょ」
紫音は頷きながらも、2人はゲートの前から離れる素振りは見せなかった。
カクヨムにて100話ほど先読み掲載してます。




