47話異変
その日、大須ダンジョンの森の中をふらふらと歩く人物が居た。
足取りはおぼつかないのに襲いかかってくる魔物を不自然に尖った爪で切り裂くと言った野生的な倒し方でどんどんと奥へ進んでいく。
まるで検査服の様な青い服を身に纏い、目の焦点が合わない彼はどんどんと奥へ進む。
彼はどう言った訳か受付を通っていない。
こんな状態で受付で止められるだろう。受付を受けなければ入れないはずのダンジョンにどう言った訳か突然現れた不審者。
ゲート前に居た入場者達もその足取りなど不審に思う事はあったが、自分に害が無いのなら関わらない人が多数。
一組、心配をして声をかけたグループは居たが、その不審者は「五月蝿い」と腕を振り回して払いのけると森に入って行ってしまった。
払い除けられた人物はまだ心配していたが、同じグループの仲間が、こんな事をされてまで気にかける必要はない。放っておけ。と言うので、その人物も追う事はなかった。
その不審な人物はどんどんとダンジョンを進み、最深部までやって来た。
最深部の熊の様な魔物達はその不審者に襲いかかり、肩口に噛み付いた。
肩を食いちぎり、強さを鼓舞する様に雄叫びを上げる熊の様な魔物であったが、肩を食いちぎられた不審者は痛みを訴えるわけではなく、肩では無く、胸の中心部を掻きむしる様にして居たかと思うと、突然、熊の様な魔物にも負けない雄叫びを上げた。
その瞬間、身体中の筋肉は肥大化し、人間ではあり得ない蝙蝠の様な羽が生え、先程でも不自然だった尖った爪はさらに肥大化してどんどんと化け物じみていく。
Gクラスダンジョンでは最強の熊の様な魔物達も、その威圧感に恐怖を抱いて逃げ出した。動物としての本能が体を動かしたのだ。
その場に残された不審者が変化した化け物はもう人としての知性は無く、その場でただ暴れ出した。
体型の変化についていけずに弾け飛んだ衣類のポケットから、井上久人と書かれた個人カードだけがこの化け物の正体が人間だと言う事を示して居た。
_____ああ。やっぱり失敗ですか。難しいですね、人間と言うのは______
誰も居ない最深部で、そんな声が聞こえた気がした。
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今日のダンジョン探索はレベッカが食べたい物があるからと遅い時間になってしまった。
レベッカだけ別行動でも良かったのではないかと思わなくもないが、紫音も興味があった様で、まあ息抜きも必要だろう。
しかし、注文したは良いが、奇妙な物を頼んだせいで、2人とも途中でギブアップしてしまい、結局俺が残りを食べる羽目になってしまった。
パスタに抹茶小豆やイチゴと生クリームはやってはダメな組み合わせだと思う。
レベッカも紫音も苦笑いして居た。
それはもういいとして、俺達は今日もダンジョンの最深部へ向けて向かっていた。
森に入ってしばらくした時、それは起こった。
紫音と楽しそうに話していたレベッカも話すのをやめて森の奥を見た。
「黎人、ここってGクラスよね、なぜあれが起こるの?」
「わからない。でも、このランクのダンジョンで起これば大惨事になる」
「行きなさい黎人、この状況をなんとか出来るのは貴方しか居ないわ。紫音の事は任せなさい」
俺は黙って頷くと、森の奥へと向かった。
「紫音、これから大変な事が起こるわよ!ここ数週間で魔法の使い方も慣れたもんでしょ?ゲートまで魔物を通さない様に、気合い入れなさい!」
レベッカが紫音を鼓舞する声が後ろから聞こえて来た。
俺は久々に異空間から自分の武器を取り出して事態を収める為に気配のする方へと向かった。
カクヨムにて100話ほど先読み掲載してます。




