46話私の魔法の使い方
1体、2体、3体と、相手にする魔物の数は増えていくが、紫音は巧みな車椅子捌きでギリギリの戦闘をこなし、魔物を倒して来た。
しかし、今日は魔物をこれまでの様に上手く相手にできないでいた。
今日から大森林の最深部エリアに足を踏み入れたからだ。
最深部の魔物はこれまでとは一味違った。
今まで数だけ多くなっていた魔物がこの場所では、魔物同士が連携して襲ってくるのだ。
紫音は上手く相手どってはいるが、防戦一方になってしまっている。
「問題です。服の受け渡しをした時、静電気がパチっと弾ける理由を帯電の単語を用いて説明しなさい」
そんないっぱいいっぱいな中、レベッカから紫音に問題が出された。
これは、何もふざけているわけではない。
魔物と戦うと言う極限状態の中、意識せずに魔法を使う為の特訓であり、レベッカも一緒に紫音の面倒を見始めた頃から行われている。
これまでものエリアでは何とか問題に答えながらでも戦えたのだが、今は、答えは頭に浮かんでいるものの喋る様な余裕はない。
紫音は目の前の魔物の爪をランスで弾くと、距離を取ろうとコントローラーを動かした。
しかし、その先には行動を予測して先回りした魔物がおり、このままでは紫音はその魔物の攻撃を受けてしまう。
しかも、そちらに向かって移動している事もあり、直撃どころか、こちらから進むスピードも加われば大怪我になるだろう。
やばい。
そう紫音が思ってここから更に曲がろうとコントローラーを切った。
しかし、その反応も、このままでは間に合わない。
紫音は無意識に今まで問題を解く為に使っていた余裕を総動員して思考を巡らせた。
すると、今まで聞いたこともない様な音で車椅子のモーターが唸り、横へ向かって加速した。
その予想外の移動について行けずに紫音は車椅子ごとすっぽ抜けて転がっていく。
その瞬間、目の前に黎人が現れ、紫音を車椅子ごと受け止めた。
紫音は、まだ何が起こったか分からずに混乱しながら、ただ、荒くなった息を整えた。
「紫音ちゃん、やったじゃない!」
紫音がレベッカの声に振り向くと、魔物は全てレベッカによって倒されて、レベッカは笑いながら手を振っていた。
紫音は訳が分からずに顔を黎人へと向ける。
「今の最後の移動は魔法を使ったものだ。
まさか魔法で攻撃するのではなくて、車椅子の移動に使うとは思っても見なかったが、紫音はちゃんと魔法を使えていたぞ」
その言葉に紫音は衝撃を受けた。
自分が、魔法を使った?
無意識だった為に、あまり実感がない。
歩いて来たレベッカに握手を求められて、その手のひらを握り返す。
その時、レベッカの顔がイタズラ好きの子供の様な笑顔になっている事に気づかなかった。
「おい、やめ__」
横でそんな黎人の声が聞こえたが最後まで聞く余裕は無かった。
全身に、電気が走った。
表現方法ではなく物理的に。
紫音は驚きの声を上げる暇もなくレベッカを見た。
「紫音ちゃん、あなたの体に電気が流れているのがわかる?さっきはどうやったのか覚えてないんでしょ?
次は意識して操りなさい。
流れる電気を意識して、私の手のひらに返す?
何処かに放出する?何でもいいわ。
あなたのやり方で、電気を動かしなさい」
紫音はその言葉を聞いて自分の知識を総動員して答えに導く。
プラス、マイナス、静電気、オゾン。
色々考えた結果、痺れる体で集中できず、考える事をやめた。
その瞬間、紫音は見事に電気を操り、自分の体に流れる電気をレベッカへと押し流した。
バチン!と大きな音を立てて紫音とレベッカの手が弾かれた。
不思議と、弾かれた手は痛くなく、紫音は不思議に思った。
そして、レベッカは大きな笑い声で笑い始めた。何事かと紫音がそちらを向く。
「やっぱりね。黎人、この子、あなたとは違って完璧な感覚派だわ」
この日、紫音は魔法が使える様になった。
まだ魔力が少なく、放出して直接ダメージを与える様な魔法は使えないが、ピンチの時に使った様に車椅子を速く動かしたり、ランスに纏わせて電気を付与した攻撃はできる様になった。
ちなみに、レベッカが笑った理由としては、感覚派の紫音は、考えるよりも先に体が動いてしまい、今まで問題を解きながら戦闘をこなしていたのはあんまり意味がなかったからだとか。
その後、レベッカは楽しそうに、「どんだけ強い元冒険者でも、人を育てるとなったら勝手が違うものよね」と、いじり倒していたとか。
カクヨムにて100話ほど先読み掲載してます。




