41話狩人の大森林
今日は紫音にとって初めてのダンジョン探索の日である。
黎人に貰ったインナースーツを着込み、ダンジョンの入り口であるゲートの前までやって来た。
受付の人に、何度か本当にダンジョンへ行くのかと確認を取られたが、私は目標の為に何回聞かれても「はい」と答えた。
入場前、黎人が紫音に与えた物は2つある。
新しい車椅子と騎槍だった。
黎人は、車椅子というハンデがある紫音をどうやってダンジョンへ連れて行くか考えていた。
車椅子の為に火蓮が使っていた様な剣を渡しても踏ん張りが利かずにうまく扱えないだろう。
それに、移動するには車輪を手で回す必要がある。このままでは前途多難だった。
そこで、黎人が考えたのが車椅子の魔改造。
電動の車椅子にターボスイッチをつけて急加速できるようにして、タイヤは四輪。しかも四輪駆動な上に特殊なサスペンションを付けて少しの岩場くらいならびくともしない。
そんな特殊設計な車椅子。
…なんと、《Orichalcum》にありました。
作れるか聞こうとしたのだが、既に既製品がありました。
世界には他にも車椅子で冒険者をしている人も居るのだろう。
そんな特殊な車椅子で相手に近づいてランスで突き刺すと言った騎馬での戦闘法。
勿論、初めは難しいだろうし、練習は困難を極めるかも知れない。
しかし、紫音が目標にしている所は魔石を吸収してステータスを伸ばし、自分の足で歩ける様になる事。それもとても困難な道のりだろう。
だから、この車椅子を扱う所で挫折する様ではダメなのだ。
それに、最終的には紫音には別の戦い方も覚えてもらうつもりである。
その為に、まずはじっくり、紫音の成長を目指す。
その意思確認をして、2人はゲートを潜ってダンジョンへと入った。
ゲートを潜ってすぐ、ここGクラスダンジョン《狩人の大森林》は森へ入るまでに開けた広場がある。
普通は、この広場はすぐに通り過ぎて森に入っていく。しかし、2人はこの広場で魔物が森から出てくるのを待った。
まずは車椅子での戦い方を覚える必要がある。
魔物なしで、まずは車椅子とランスの扱い方を体に覚えさせていく。
しばらくして、鹿の様な魔物が森から出てきた。
他の入場者が居るのでここまで出てくる魔物はとても少ない。
紫音は練習の通りに車椅子のターボスイッチを操り、急加速して魔物に近づいてランスを突き出す。
初めはタイミングが合わずに通り過ぎてしまった。
驚いた魔物は森に向いて逃げようとするが、そこには黎人がおり、逃げられない。
黎人に立ち向かうより、紫音に向かった方がいいと判断したのか紫音に向かって走り出した。
向かってくる事に驚いた紫音は、車椅子を操ることもできずに目をつぶってランスを突き出した。
ちょうど、そこには紫音を飛び越えて逃げようとした魔物が迫っており、偶然にもランスは一撃で魔物の心臓付近を貫いた。
これが、なんとも間抜けではあるが、紫音の魔物討伐一頭目である。
その後も、練習と、魔物が現れては討伐を繰り返した。
その日に稼いだ魔石は微々たる物で、以前に火蓮が初めてダンジョンに入った時と比べると悲しくなる量だったが、その少しでも、紫音の成長には欠かせない物だった。
その日以降、ダンジョンに潜る日と、勉強をする日を交互に続けている
勉強しているのは静電気発生の仕組み、それから雷発生の仕組みなど、電気に関する知識だ。
冒険者は魔法を使う。これは想像を魔力によって具現化させる事ができると言う不思議な能力だ。
しかし、魔法を使えない冒険者もいる。
これは自分が魔法を使う事を想像できないからだと言う説がある。
ピンチに陥った時に魔法が使える様になったと言う人が多いのは、神に祈るのと同じ様にここでこんな魔法を使えたら。と願った結果なのかもしれない。
しかし、魔法とは科学であると言った人物もいる。
科学的な現象を魔力によって引き起こした現象こそが魔法だと。
結果、どちらも正しいのだろう。どちらとも魔法を使える様になった冒険者はいるのだから。
紫音には車椅子と言う戦闘でのハンデをひっくり返す為に魔法も覚えさせたいのである。
Gランクダンジョンに魔法なんて過剰戦力だと言う人もいるかもしれない。
しかし、過剰戦力と言うことはそれだけ安全だとも言える。
それに他にも理由はある。足を動かすのに役立つかもしれないと思ったからだ。
電気魔法を選んだのは、脳の電気信号を増幅するなどの応用が出来れば歩く事に近付くのではないかと言った理由だ。
勿論、後には神経など医学的な事も勉強しなければいけないとは思う。
それでも、上手くいくかは分からない。
トライ&エラー。
紫音の目標は冒険者になる事ではなく、歩ける様になる事。
その為にできる事を地道にやるだけである。
魔石を吸収する度に、紫音の理解力や判断力も上がり、戦闘、勉強共に効率は上がっていく。
魔石を売っている様な店があると良いのだが、そんなに都合のいい場所はない。
魔石はエネルギーになる為、基本は政府が買い上げる。
自分で取った魔石だけ、個人での使用を許される。
グレーな所としては冒険者に頼んで取って来てもらう事だろうか?
違法ではないが黎人はお勧めしない。
魔石を吸収した分、探索で慣らしていかなければ本当に自分の力になったとは言えない。思わぬところでコントロールできずに不都合が起こる事もある。
なので自分が稼いだ魔石を吸収する事を教え子には教える。
紫音は虐められ、縮こまった高校生活よりも、有意義で楽しい日々を過ごしていった。
カクヨムにて100話ほど先読み掲載してます。




