第35話落ちてきた少女
三重県伊勢市
日本を旅するなら先ずはここからだと黎人は決めていた。
ダンジョンと言うファンタジーにしか無かった物が現実化したおかげもあってか日本の冒険者は昔よりも神様を神聖視する様になった。
常日頃平和だった頃とは違いダンジョンの中は死の危険が付きまとう。
人は死に迫った時に最後に縋り付くのは神様だと言うのは本当なのかもしれない。
実際黎人は神に祈った事も神に悪態をついた事も両方ともある。
祈っても手を差し伸べてくれず、最後に頼りになるのは結局自分と仲間だと痛感した出来事もあった。
だから1番最初に来るのはここ《伊勢神宮》だと決めていた。
日本で1番有名な神様《天照大神》。
あらゆる願いを聞き届けるとされる慈愛の神様。その神様を祀る祠までは入っては行けないが、その手前、長い階段を登ったあたりで黎人は天照に話しかける様に悪態を吐いた。
周りに人がいればギョッとしてこちらを向いたかもしれない。
「いいご身分だな。俺の大事な願いなんて一つも聞いてくれなかったクセに大層に祀られて」
別に恨んでいるわけではない。気持ちの整理は付いている。ただ、ここに来たら言ってやりたかったと思っただけだ。
勿論返事など返ってくるはずもなく黎人はそのまま背を向けると神宮を後にした。
その後はおかげ横丁をぶらっと歩いた後にごく一般的な観光ルートを訪れ、今は夫婦岩までやって来ていた。
来てから思ったが、ここはカップルで来るところで1人で来ても何もする事はないな。
黎人は帰ろうと二つの岩から目線を外した所で目を細め、そして一気に走り出した。
「おいおい待て待て!」
黎人の視線の先には今にも海へ飛び降りそうな人影が一つ。
そして、
飛んだ。
黎人は身体強化に加えて風を操り一気に飛び上がると、落ちて来た少女をなんとか抱き抱える様にキャッチした。
素早く足に魔力を纏わせて水面に氷を凍らせてそこに着地した。パキパキと水面が凍っていく。
抱き抱えた少女は飛び降りの恐怖からか気絶していた。
少し離れたところでガシャン、と音がしてそちらを振り向くと車椅子が氷の上に転がっていた。
とりあえず少女をお姫様抱っこの様に抱えた状態からなんとかおんぶへと背負い直すと片方の手で車椅子を引きずってレンタカーが置いてある場所までもどってきた。
車の後部座席に少女を座らせると引きずってきた車椅子を確認する。
特に壊れた様子もない…いや、氷の影響でタイヤのゴムが割れてパンクしていた。
タイヤを交換すれば大丈夫かな?そんな事を考えていたら少女が目を覚ました。
「ん…」
「お、目が覚めたか?」
「え?あれ?私、死んでない?あれ?ここは?天国?」
混乱する少女に黎人は笑いながら話しかけた。
「死んでないぞ。俺がちゃんと受け止めたからな。怪我も無いはずだけど、どっか痛む事はあるか?」
「ううん、ない…」
「余計な事しやがってとか思うなよ?俺に見える所で飛び降りたお前が悪い!」
「ううん、ありがとう。飛び降りてから、後悔してたから…」
下を向いたまま答える少女に黎人は優しく尋ねる。
「で、なんで飛び降りようと思ったんだ?人に話せば楽になる事もある。俺に話してみないか?」
少しの沈黙の後、少女はポツポツと話し始めた。
「学校でね、いじめられてたんだ、私。
皆んなに無視されたり、この、車椅子が邪魔だって蹴っ飛ばされたり、机に落書きされたりとか。…あとは、殴られたり水をかけられたりしたなぁ。
それでもね、いつも味方になってくれて、大丈夫?って支えてくれる友達が居たからなんとか頑張って来れたんだ。
でもね、ある日その友達がトイレに行った時に置いて行ったスマホに来たメッセージが見えて、気になって見ちゃったんだ。
そしたらね、その子も私の悪口を他の子に言ってて、それに、その子が…いじめの主犯だったんだよ。皆んなに指示してて、私が他の大人に相談しない様に私の味方になったフリまでして、裏では笑ってた。
私は差別されて仕方ないんだって、足が弱いから、生まれつき不自由だから、親も、施設に私を預けてどっか行っちゃった…。
だから、神様にお願いしようと思って、伊勢まで来たんだけど、神社ってさ、砂利道とか階段とか色々あって神様の場所まで辿り着けなかった。神様まで、足の悪い私を馬鹿にするんだって思ったら悲しくなって。
それで、あそこは岩がゴツゴツしてなくて車椅子でも行けたんだけど、海を見てたら、私なんか、いなくなった方がいいのかなって思って…それで…」
話すほどに弱々しくなっていく少女の言葉は彼女の心がかなり重症なのを表現している様だった。
「それじゃ、神様は助けてくれなかったけど代わりに俺が助けたって事だな」
そう言って黎人は少女にニッコリと笑いかける。
黎人を見上げた少女の目にはだんだんと涙が溜まっていき、遂には決壊した。
「おいおい泣くな泣くな」
黎人はダッシュボードに置いてあったティッシュを箱ごと少女に渡すと少女が落ち着くのを待った。
「それで、助かった君はこれからどうしたい?」
「これから?」
「そうさ、せっかく助かったんだ。今度はいじめた奴らを見返してやるとかはどうだ?」
「無理だよ…私、足がこんなだし…」
「そんな事ないさ。人は努力で困難を乗り越えられる。さっき足が弱いって言ってたけど全く動かないわけじゃないんだろ?」
「それは…昔、リハビリをして少し歩いたことがあるの。でも、ぎこちない歩き方がかっこ悪いって、結局笑われて、それからは努力するのも諦めちゃった」
「少しでも動くなら荒療治を試してみるか?
これで上手くいくかは分からないけどな。
昔、怪我で片腕が動かなくなった男がいたんだ。仕事も首になったそいつは稼ぐ為に冒険者になった。
魔石を吸収したその男はステータスの上昇と共に徐々に腕が動く様になっていったんだ。
一説によると魔石の吸収によって神経の伝達機能が強化された事による副次効果じゃないかって話だ。アメリカの話だがな」
「冒険者…」
「ああ。冒険者にならなくても魔石をとって吸収する方法はある。
これでも俺は元冒険者だからな。ドロップアウト組だけど、一般入場可能なGクラスダンジョンでなら面倒見てやれるぞ?」
「…冒険者になったら足が動くかもしれない。
…ねぇ、冒険者になれば施設を出てもやって行ける?」
「まぁ、冒険者にならなくてもそれはやっていけると思うけど冒険者は努力がしっかりでる。無茶をせずにしっかりとステータスを上げれば他の仕事に就いても役に立つとは思うぞ」
「…じゃぁ、頑張ってみる!」
少女の目は決意の光がやどっていた。
「俺は春風黎人。お前は?」
「紫音、亜桜紫音です。よろしくお願いします、春風さん」
「そしたら紫音って呼ぶな。まずは紫音の施設に挨拶に行くかな」
「はい!」
「どこにあるんだ?」
「愛知です!」
笑顔で答える少女、紫音の言葉に、黎人は旅館にキャンセルを入れ、電車のチケットを予約した。
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