第323話 水族館3
「ラッコ可愛かったね」
「そうだな。でも……ペンギンの……」
幸と千聖は2人して大笑いしている。というのも、ペンギンコーナーに行ってきたのだが、泳いだり、よちよちと歩いているペンギンが沢山いる中、4人が見ていた目の前のペンギンがいきなりウンチをしたのだ。
4人に背中を向けていた事もあり、勢いよく飛んできて4人の前のガラスに命中した。
それを見て幸と千聖は大笑いである。
小学校低学年のツボにはぶっ刺さったのだろう。
その後にアザラシやラッコも見てきたのだが、2人は今だにペンギンを思い出して笑っている。
早いもので、朝から水族館に来たのにもう夕方だ。
子供達が1日楽しめたようでそろそろ帰る時間である。
最後に立ち寄るのはお土産コーナーだ。
店内には大きなイルカやオットセイ、ペンギンのぬいぐるみからキーホルダー、お菓子まで色々と並んでいる。
「それじゃ、一つお土産を選んでいいぞ。だけど、あの大きいのは持って帰るのが大変だから無しな」
幸地の言葉に幸と千聖は幸地の方を見上げて目を輝かせた。
「本当に! お土産買っていいの?」
「本当に本当?」
2人が言ったのは文句ではなく、本当にお土産を選んでいいのかという確認であった。
少し前までの中原家の経済状況はボロボロで貧乏な事を自覚していた。なのでこれまでスーパーの買い物などでもお菓子をねだった事はない。
今回の水族館はそんな中でも連れてきてもらった特別な場所だ。
だからこそ、2人は家計の心配をして幸地に確認をとったのであった。
その事を理解して、幸地は苦笑いだ。
「大丈夫だ。お父さんお仕事変えてそれくらいは買ってあげられるようになったからな」
仕事を変えたは厳密にはまだ違う。しかし、先行投資だと言われて、黎人から前の仕事よりも多い給料をもらっている。
魔石の税金も払ってもらっているのにそれはと断ろうとしたのだが「将来それ以上に返してもらうから大丈夫。それよりも、子供達や自分の生活の事をちゃんと考えろ」と笑って言われ、ありがたく頂いている。
「それじゃ、見てくる!」「僕も!」
2人は幸地の言葉に、勢いよくお土産コーナーを見に行ってしまった。
「走ると他の人の迷惑になるから落ち着いて見るんですよ」
2人は万里鈴の言葉が届いたのか走るのをやめて歩いてお土産を見始めた。
「それじゃあ私達も見ましょうか」
「え?」
「お世話になってる春風さんは勿論翠ちゃん夫婦や幸君や千聖君の友達のお宅にお土産を買わないといけないでしょう? 私も職場にくらい買って行かないと行けませんし」
「あ、はい」
幸地は勿論お土産を買うつもりがなかった訳ではなく、別々に見るのだと思っていた。
まあ一緒に見た方がお土産のお菓子が被る事がないのでそちらの方が効率がいいのかもしれないと思い、2人で一緒に見て回る事にした。
「やっぱりお土産はチョコがいいでしょうか? それともクッキー?」
「せっかくだったら絵が書いてある方がいいんじゃないですか? このクッキーみたいなスティックの物よりは」
相談をしながら幸地と万里鈴はお土産を選んでいった。
2人がお土産を選び終えても、幸と千聖は2人のところに戻って来ていなかった。
「2人はどこにいるでしょうか?」
「えっと、あそこですね」
お土産コーナーを見回して、幸と千聖を発見すると、2人はお土産が決まったのか聞きに、子供達の所へ向かう。
「決まったか?」
「あ、父ちゃん、これ……」
幸地の質問に幸が指差したのは、ペンギンのキーホルダーであった。
「お、キーホルダーでいいのか? 千聖も同じのでいいのか?」
少し迷っている様子の幸の言葉に、幸地は確認するように2人に質問する。
「父ちゃん、2つ買ったらダメかな?」
「ダメかな?」
子供達の言葉に、幸地は首を傾げる。
「他にも欲しいのがあったのか?」
「ううん。俺と千聖のと、父ちゃんのと、万里ちゃんの分」
どうやら幸と千聖は、今日の記念に4人お揃いのキーホルダーが欲しいようであった。
「それは……」
流石に万里鈴もお揃いは迷惑ではないかと、幸地は万里鈴の方を見た。
「それでは、4人分買いましょうか。初めての水族館ですものね」
万里鈴がそう言うと、幸と千聖の顔はパッと明るくなった。
お土産を買った後は、ついでなので外食をしてから帰る事にする。
お店へ向かう迄の道中、幸と千聖はどこにキーホルダーをつけるかで盛り上がっている。
2人とも、ランドセルにつける事にしているようだが、早く付けたいといってお土産の個包装の紙袋から出してみては無くさないように大切に袋にしまっている。
「万里ちゃんはどこにつけるの?」
千聖が不意に万里鈴に質問した。
「キーホルダーですからね、鍵に付けますわ」
万里鈴はそう言って、既にペンギンのキーホルダーを付けた鍵を取り出した。
「あ、もう付けてある!」
「先に付けちゃいましたわ」
万里鈴は笑って幸と千聖を撫でた。
「父ちゃんも付けた?」
「え? お父さんはまだ」
「なんだよ! 父ちゃんもちゃんと付けようぜ!」
幸に急かされて、幸地もこの場で自分の鍵にペンギンのキーホルダーを付けた。
幸がそれを見て「よし!」と納得する。
その後は、今日の水族館の話を4人で話しながら、ご飯を食べるお店へ向かうのであった。
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