第320話 監視
日曜日の朝早くに、万里鈴は歩いて家を出た。
愛車で出かけないのは只今絶賛免停中である為だ。
こうなる事は覚悟の上であの時あの人を授業参観に送り届けたので悔いはない。
「お姉ちゃんが父ちゃんを連れて来てくれたのめっちゃかっこよかった! ありがとう」
万里鈴は左手を見ながら顔を綻ばせた。
あの後、幸せな親子の笑顔に触れて心が温かくなった。
それは、自分が失ってしまった物だから。
師匠や友達の翠ちゃん達にも決して埋められない。心にできた小さな傷が、暖かさを感じるとともにちくりと疼いた。
あの人、中原幸地をダンジョンで助けた日からしばらくたったが、万里鈴は休みの度に幸地と会っている。
本日も中原親子と待ち合わせである。
「すいません。本日もよろしくお願いします」
「万里ちゃんおはよう!」「おはよう!」
「いえ、お待たせしてしまいましたか?」
「はは、今日はこの子達が早く出たいと言いまして」
時間通りに着いた万里鈴の言葉に、幸地は苦笑いでそう答えた。
「だって初めての水族館だぜ!」
幸地の言葉に反応して幸が元気な声で答えた。
先ほど、休みの度と説明したが、それは万里鈴の休みではなく、幸地の休みの度にである。
拾ってきた猫を最後まで面倒見るが如く、万里鈴には翠から《《業務命令》》として休日の幸地の監視が言いつけられた。
姉弟子として休み返上で無茶をする弟弟子の心配をしての依頼という事になっているが、半ば強制のような雰囲気があった。
なので、幸地が休みを貰っている週に2日3日は万里鈴が監視という名目で一緒にいるのである。
学校がある時は2人きりで部屋にいるのは気まずいので休みの度に外に出かけたり、子供達の学校が休みの時は公園などに出かけたりで休まらないのではないかとも思うが、ダンジョンに行かせない為の処置なのでこれでいいのだろうか?
そうやって過ごしていれば、子供達とも仲良くなる。
弟の千聖君が魚が好きなのを話していて、万里鈴が、水族館の話をした時に、子供達は水族館に行った事がないという話になり、今日こうして水族館に出掛ける事になったのだ。
「早く行こうぜ!」
幸が万里鈴の手を引いて駅の方を指差す。
弟の千聖も同じように幸地の手を引っ張っていた。
「すいませんが、今日もお付き合いよろしくお願いします」
「私も嫌ではありませんから。全部経費で落ちますし」
経費というよりも黎人のポケットマネーからなのだが、そこは置いておこう。
万里鈴は照れ隠しの為に仕事を強調したが、この親子の楽しそうな姿を見るのは自分にとっても心温かくいいリフレッシュになる。
「こら! 急いだら人にぶつかるかも知れませんし車も危ないですわ。時間は間に合いますから気をつけて歩いていきましょう」
「はーい」と答えながらも、気が逸るのか歩くペースが速くなり、自分の手を引く幸の様子に苦笑しながら、万里鈴は中原親子と水族館へ向かうのであった。
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