第319話 中華
黎人と幸地がタクシーで店につくと、先についた楓達は席に座って待っていた。
「先に適当に頼みましたけど、追加があれば注文してください。師匠のいつものは注文してあります」
「ありがとう」「ありがとうございます」
黎人がアンナの隣の空いている席に座り、幸地は幸の隣、と思ったが、幸の隣には万里鈴が座っていた。
「父ちゃんはお姉ちゃんの隣な!」
幸が笑って幸地にそう言った。
道中仲良くなった幸は、万里鈴の隣に座りたかったようである。
おとうとの千聖は幸とアンナの間が良かったらしく、その間に収まっているため、幸地は言われた通りに空いている万里鈴の隣に座った。
空いていると言っても、個室で人数分しか席がない為、そこしかないのだが。
今日のご飯に選ばれたのは中華である。
町中華と言うよりは高級中華で、話しやすいように中華式ターンテーブルのある個室である。
しかし高級中華だからと言ってもここは星空系列の中華料理店である。
オーダーがあれば町中華のメニューだろうとイタリアンだろうと用意してくれるであろう。
椅子に座ると幸地は万里鈴からメニューを渡される。
開いてみると金額の載っていないメニューが並んでおり、知っている名前もちらほらあるが、知らない名前の方が多い。
「一応頼んであるのはこの辺りでしてよ」
隣の席から万里鈴がメニューの見開き片方を摘んで幸地と2人で持つようにして、頼んだメニューを教えてくれる。
その名前を聞いて、幸地は高そうだという感想しか出てこなかった。
「この面子で値段なんで気にしても仕方がないわ。貴方も春風さんの弟子なら慣れていかないと体が持ちませんわよ? それで、何が食べたいんですの?」
「私がいつも食べるようなラーメンや餃子は無いみたいですから、お任せします」
「餃子は幸君が食べたいって言ったから頼んでありますわ。ラーメンは何味がよろしいの?」
「父ちゃんはいっつも味噌ラーメンだよ」
万里鈴の質問に幸が隣から答える。
「それでよろしいの?」
「あ、はい。しかしメニューにはありませんし」
「そんなの、ここは頼めばなんでも出てきますわよ、春風さんが来店してるんですもの。翠ちゃん、味噌ラーメンだそうよ。飲み物は……お酒飲まれます?」
「いや、烏龍茶を」
「烏龍茶ですね」
万里鈴の確認に、幸地は疑問を伝えるが、返ってきたのはとんでもない答えであった。
万里鈴の言葉に、翠が追加のオーダーを店員に伝える。
そうこうしている間に先に頼まれていたメニューが届き、ターンテーブルの真ん中の回転する部分へ置かれていく。
「幸君と千聖君はどれがいいんですの? 取ってあげますわ」
「フカヒレと餃子!」「僕炒飯とお肉!」
万里鈴は2人のオーダーを取り分けるとそれぞれの前に置いて「他に食べたいものがあれば言うんですのよ」と言って空いているお皿を取り餃子を何個か取って、幸地の方を見た。
「餃子の他には何がいいんですの? ラーメンが来るまでまだ時間がありますわよ。慣れないようですので取って差し上げますわ」
「では、えっと、おすすめの物を」
「分かりましたわ」
万里鈴は、テーブルのメニューから何品か選んで幸地の前に置き、最後に自分の分を取った。
万里鈴が取り終わる頃には黎人や楓達も取り合えている。
幸地の慣れない雰囲気の中での食事はこうして始まるのであった。
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