第316話 見回り
本日、幸地のダンジョン探索はお休み。
のはずであった。
それなのに、幸地は一人でダンジョンに探索に来ている。
「そりや!」
まだまだ未熟で、拙い不恰好な剣の扱い方だが、初日の頃よりステータスが上がった事もあり、幾分かマシになったように思える。
幸地がここでこうしてダンジョン探索している事は、黎人達に相談していない幸地の独断である。
自分が早く成長しなければお世話になっているみなさんや会社に迷惑がかかるのではないかと言った考えから、染みついたサービス残業精神でいつも休みを返上して1人ダンジョンまで来ているのであった。
今日は平日なので、仮免許所持者がメインのGクラスダンジョンは入場者がほぼおらず、魔物を取り合う事なく探索できるのだが、やはり戦い方が不恰好だからだろうか、たまに会う他の入場者にひそひそと話されている気がする。
しかし、周りから後ろ指を指される事に慣れている幸地は、周りの話をぼんやりとシャットアウトして、ステータスを上げる為に魔物を倒す事に集中した。
「あ、今何時だろ? よかった。そろそろだな」
集中して魔物を倒していた幸地は、腕時計を確認してほっとひと息ついた。
今日の休みは体を休める事も目的の一つだが、幸達の2人の息子の授業参観の日なのである。
これまで、仕事が忙しく子供の行事などでは休みを取らせて貰えなかったので、初めて子供の成長を見に行く学校行事である。
自分が来てくれるのを子供達も楽しみにしていたので、遅刻しないように小学校に向かわなければならない。
幸地はダンジョン探索を切り上げて、小学校へ向かう為にゲートへと向かおうとした。
「あれ? ここ、どこだろう」
幸地は魔物との戦闘に集中するあまり、いつもとは違う場所までやって来ていた。
「とりあえず、知ってる所まで戻ろう」
幸地がもと来た方向であろう方へ進み始めると、ダンジョンが気を遣ってくれる訳もなく、魔物が姿を現した。
「急がないと子供達がまっているんでね」
幸地は剣を構えるが、言葉とは裏腹に構えは様になっていない。
「ガァ」
「え、魔物が2匹!」
今までは魔物は1体づつ現れていた魔物が急に2体現れたのだ。
「でも、やるしかない」
幸地のステータス的には2体同時でも対応できるのだが、経験はない。
それに、早く倒さなければいけないという焦りと、これまで休日返上でダンジョンに潜り続けた疲労。
2体同時に戦うには咄嗟の判断力が落ちていた。
いつものように1体を確実に倒そうとすれば、もう1体の攻撃を受けて攻撃の機会を潰されてしまう。
インナースーツのおかげでダメージを受けていないが、戦いにくい為に倒しきれない。
「クソ、早く小学校に行かないといけないのに!」
幸地が愚痴をこぼすがそんな事は魔物には関係ない。
幸地がどうすべきかと考えながら、魔物の攻撃を防いでいると『シャン』という鈴の音が聞こえた。
その後、幸地の目の前の魔物2体が火の玉によって消し飛んだ。
「少し見てたけど、倒せなそうだったから処理させて貰ったわよ」
魔物を魔法によって消し飛ばしたのは、髪飾りに鈴をつけた女性であった。
「私は低級ダンジョンの見回りを冒険者ギルドから依頼されて独断で危ないと思った入場者を助ける権限が与えられてるから、もう少しで倒せたとか言う文句は受け付けないわよ?」
幸地にそう言う女性に対して、幸地は頭を下げた。
「ありがとうございます、助かりました。私は中原幸地と言います」
「え、あ、日野万里鈴よ。お礼はいいわ、ギルドからの依頼だし」
「それでも、助けていただいたのは万里鈴さんですから」
頭を下げる幸地の姿に、女性、万里鈴はたじろいだ。
GクラスダンジョンやFクラスダンジョンにいる冒険者で、見回りの冒険者に助けられるらような人間は、自信があり、これからやってやるぜと意気込んで無茶をしている人間ばかりなので、助けられた事に文句を言う事こそあれ、お礼を言う者は少ない。
これは、無茶をするような人間は指導員のいない冒険者マネジメント会社に未所属の冒険者というのも理由の一つだろうという事は今は置いておこう。
お礼を言われ慣れていない万里鈴は対応の仕方が分からず、その結果、顔を赤くしてそっぽを向いた。
「まあ、いいわ。無茶をするんじゃないわよ!」
そう言って去ろうとする万里鈴に、幸地は申し訳なさそうに話しかけた。
「実は、ゲートまでの方向と行き方がわからなくなってしまって……」
「な、いいわ。ついて来なさい。送り届けてあげるわ!」
その後、ゲートに向かうまでの道を、幸地は申し訳なさそうに急げないかと相談した。
幸地が帰りを急いでいる理由を聞いた万里鈴は、自身の腕時計を見てギョッとした。
「もう時間がないじゃない! 急ぐわよ!」
ゲートを出た後、万里鈴は幸地に話しかけた。
「タクシー呼んでたんじゃ間に合わないじゃない!」
万里鈴は幸地の手を引いて、駐車場に行くと、自分の車に幸地を乗せて、車を出した。
「場所は道案内しなさい!」
小学校に向かう道中、幸地は万里鈴に質問をした。
「どうしてここまでしてくれるんですか?」
「家族は、大事にできる時に大事にしなさい。失ってからでは、何もできないんだから」
「はい。分かっています」
「そう。じゃ、飛ばすわよ!」
万里鈴は、小学校に向けてアクセルを踏み込んだのであった。
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