第314話 合格祝い
「よし、これで中原さんもダンジョンに入場できますね! いやあ、理解力があって普通より早いですよ。仮免許、何回か落ちる人なんてザラですから」
冒険者ギルドの受付ロビーで、椿楓が幸地にそう言った。
「いえ、楓さんの教え方が分かりやすかったからです。ありがとうございました」
楓にお礼を言う幸地に、楓は首を横に振った。
「『た』だとこれで終わってしまいますよ? 中原さんはまだスタートラインに立っただけです。これから冒険者ランクを上げて、黎人さんの会社で働けるようになって、息子さん達をなに不自由なく育てられるような立派な社員になっていかないといけません。まだどの会社に入るかは聞いていませんが、とりあえずは冒険者ランクを上げる為にステータスを上げましょう!」
「はい。ありがとうございま《《す》》、これからもよろしくお願いします」
幸地はそう言って、もう一度腰を折った。
「まあこれからは僕だけじゃなくて黎人さん達も指導に加わると思いますけどね。中原さんの退職の件は上手くいったみたいですから。っとそれは置いといて、今日は合格祝いに黎人さんに呼ばれている場所があります。行きましょう!」
「え? は、はい!」
幸地はお祝いという言葉に驚きながらも、楓の後について行く。
ギルドからタクシーに乗って2人がたどり着いたのは、立派な高層マンションであった。
「行きますよ」
幸地が見上げていると、楓が声をかけてマンションの中へと入った。
エレベーターに乗って、8階ある内の7階にたどり着くと、通路の一番奥の部屋の前で楓は止まった。
「ここは中原さんが開けてください」
楓に言われてドアを開けると、子供達の元気のいい声が耳に入った。
「父ちゃん、おかえり!」「おかえりなさい!」
息子2人の元気な声に迎えられ、部屋には料理のいい匂いが漂っていた。
部屋に入った幸地の目に飛び込んできたのは何もない殺風景な部屋の中心にテーブル、その上には料理が並び、そして、部屋の端には使い古された桐のタンスが置かれていた。
「あれは……」
「中原さんの家から運ばせてもらいました。幸君があれは幸地さんの一番大切なものだからと言ってたので。ここは私の会社の社員寮の一つです。家賃の心配もないし今日からはここで3人で暮らしてください。一応まだ元の家は解約してないので家具などはそちらにあります。買い替えたい物などあれば、給料の前借りの相談にのりますよ?」
とりあえず、絶対に必要な物は用意してあるが、思い入れのある家具もあるだろうと、黎人から幸地への提案だった。
「いえ、このタンスさえあれば大丈夫です。こんな立派な部屋を、ありがとうございます」
幸地は黎人に頭を下げた。
前の家は会社に通えるギリギリの家で、貧乏だったが故に、一人暮らし用のワンルームで親子3人暮らしていた。
これから成長して行く子供達の為にも、部屋が広く、部屋数が増える事はとてもありがたかった。
「中原さん、今日のご飯は幸君達手伝ってくれたんですよ。お父さんのお祝いだからって」
料理の用意をしていた翠が入口で立ち止まっていた幸地に声をかける。
「それじゃ、早く中に入ってみんなでご飯を食べましょう、ね、中原さん!」
楓が優しく幸地の背中を押して部屋の中に入る。
「父ちゃん、この唐揚げ俺が揉んだんだぜ!」
「僕は醤油とかニンニクとかスプーンで計ったの!」
「そうか、じゃあお父さんは1番に食べようかな。 うん、美味しい!」
食卓は幸せな笑顔で溢れている。
幸地は唐揚げを咀嚼しながら桐のタンスを見て、これからを頑張るともう一度心に誓うのであった。
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