第313話 事実
ある日、連絡が入った。
取引のある会社のよく接待をしてくれる社長だ。
昔、それこそ先先代から付き合いのある会社だが、大口という訳ではないが、ずっと決まった量の商品をお願いしている会社である。
接待を受ける日は決まっているので、予定の変更か、それともこれまでには無かったが、商談の話かと思って電話にでたのだが、内容は雇っていた社員が信用に関わる重要なミスをして解雇になったという話であった。
しかも、それを指示した人物の会社に引き抜きの話があり、取引のある会社に迷惑が掛かってはいけないと謝罪の電話をしているのだという。
この様な連絡を入れてくるという事は、この会社が作っている物は特殊な物ではないので、技術の漏洩という事はないだろうから、他社との取引記録などの顧客情報が何かを持ち出したか何かか。
我が社としてはこの会社との取引記録など取られたところでどうという事はない。
しかし、今の会社よりもいい条件を出されたとしてもその様に会社の情報を持ち出す社員のいる会社との付き合いは遠慮願いたいな。
中原幸地か。
電話が終わった後、問題の社員の名前も聞いたので、どの会社が引き抜いたのか。
部下に調べさせる事にするのであった。
幸地の働いていた会社の社長によって、中原幸地という人物が社内情報を漏洩させて引き抜きにあったという情報は瞬く間に広がり、問題になった。
しかし、各社ともに取引しているのは幸地の働いていた会社だけではない。
数週間後、中原幸地の事を探っていた会社。
つまりは幸地の働いていた会社と付き合いがあった会社の他の取引先から連絡がはいった。
「貴社は《春風グループ》に喧嘩を売った会社と付き合いがあるらしいが大丈夫なのか?」
というものであった。
春風グループとは、日本冒険者ギルドを筆頭に、傘下の冒険者マネジメント企業、冒険者保険会社と言った冒険者に関わる事業をはじめ、それ以外にも不動産、飲食などなど、日本だけではなく世界に影響を与えるほどの大財閥である。
その話を聞いて、事の経緯を調査した関連会社は、自分達が聞いていた情報が誤情報である事を知り、中原幸地は春風黎人に直接引き抜かれたという事実に辿り着く。
その情報がやけに探りやすかったのはさておき、事実を理解した企業たちは、自分達に火の粉が飛ばない様に、幸地の働いていた会社との取引を取りやめるのであった。
幸地が働いていた会社の社長室で、蒲田が途方に暮れていた。
今日になって、取引先全てが今後の取引を終了すると言って来たのだ。
理由を尋ねても「貴社の問題に巻き込まないでくれ」とのことで、要領をえない。
「どういう事なんだこれは!」
とりあえず、今の状態で働かせては社員の給料が発生するだけなので、日頃頑張っているお礼と言って休暇を与えた。
「訳がわからんが、頭を下げてでも取引を続けてもらう他ない。 クソ! いつも高い金払って接待をしてやってるのに!」
蒲田は悪態をつきながら、付き合いのある会社に直接訪問をするのであった。
しかし、どの取引先も門前払いで、取り合ってすらもくれない。
日を跨いで、何度も頭を下げに向かううちに、一軒の会社が今回の事の事情を説明すると言って蒲田の訪問を受け入れてくれた。
蒲田は、チャンスを掴んだのだと喜んだが、取引先の社長が話す内容は想像もしていなかった事で、蒲田は自分が罵倒した人物がどのような人物であったのかをこの時初めて知った。
今後、関わらないでくれときっぱりと言われ、弁解の余地などなく追い返されてしまった。
事実を知った蒲田は、放心状態のまま、いつのまにか会社の自分の執務椅子に座っていた。
どうやって帰ってきたのか覚えていない。
「もう終わりだ。はは、はははは」
社員のいない、人気のない建物のそこだけ電気のついた社長室からは、薄気味悪い乾いた笑いが聞こえてくるのであった。
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