第308話 夜の公園
『願ってもない追放後からのスローライフ?』
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ある日、黎人はアンナを連れて外食をした。
この日は紫音は医師としての仕事で海外へ行っており、火蓮は友達と旅行に行っているので、外食をしようとなったのであった。
アンナの希望でラーメンを食べ終えた後、2人は手を繋いで帰り道を歩いていた。
「パパ、帰りにアイス買っていい? おっきいの!」
アンナが言うおっきいアイスはバラエティパックではない普通のアイスだ。
帰りにコンビニかスーパーでも寄って買って行こうか。などと話しながら歩いていると、アンナがピタリと歩を止めた。
「どうした?」
黎人が声をかけると、アンナがスッと指を差した。
指の先には公園があり、その奥のブランコには1人で少年が座っていた。
辺りはもうすっかり日が暮れて公園には街灯の灯りしかなく、その薄暗がりの中で1人ポツンと居るのは、違和感があった。
アンナが見つけられたのも、ステータスが上がって視力が良くなっていたからであろう。
「幸っちゃん」
「友達か?」
「うん。同じクラスの男の子で、転校の時に話しかけてくれたの」
アンナの質問に、黎人はあの子かと思い出した。
あの時の元気な様子とは違ってどこか影のある雰囲気に始めは気づかなかった。
「一人で何してるんだろう。声かけに行こうか」
「うん」
黎人の提案にアンナが頷いて、道路を渡った先にある公園へと2人は向かった。
「幸ちゃん、こんな所でどうしたの?」
アンナが声をかけると、少年は顔を上げて、アンナを確認すると、笑顔を作ってアンナに挨拶した。
「なんだ、アンナじゃないか。こんな遅い時間に公園にどうしたんだよ?」
少年、幸の表情は、学校の時の元気な笑顔とは違って、無理やり作ったような感じがした。
「幸ちゃんが見えたから。幸ちゃんは?」
「俺はほら、まだまだ遊び足りないからさ、遊んでたんだよ!」
アンナの質問に、幸は誤魔化すかのように早口で言ったが、黎人はしゃがんで幸と目を合わせると、質問をした。
「俺はアンナのパパなんだけど、もう暗い時間だし、パパやママは居ないのかな?」
「それは、その……」
歯切れの悪い幸に、黎人は優しく話しかける。
「この時間に子供が1人で出歩いてるのは危ないからね。もし居ないんだったらおじさんから連絡しようか?」
黎人の言葉に幸は噛み付くようなスピードで返事をした。
「それはダメだ! 父ちゃんが心配するから!」
幸の言葉に、黎人は事情があるのだろうと悟った。
黎人が少し思考をしていると、幸のお腹がグゥと大きな音を立てた。
幸は音を抑えようとしたのか慌てて腹を押さえるが、そんな事で音は鳴り止んだりしない。
「ご飯はまだ食べてないのか?」
「俺は、給食だけしか食べないんだ。だから、公園には水を飲みに来た」
親に連絡をされるのは困ると思ったのか、幸は黎人に事情を話し始めた。
幸の家は貧乏で、父親は朝から晩まで働き詰め。母親はおらず、一つ下の弟が1人いて、父が用意してくれるご飯は弟に譲って、自分はいつもこうして公園に水を飲みに来てしのいで居るのだという。
話を聞いた黎人は、まずは親と話さなければいけないと思ったが、幸は頑なにそれを拒んだ。
父親に迷惑をかけてはいけないからと言って。
仕方がないので、黎人はある提案をする事にした。
「それじゃ、おじさんがご飯を作ってあげようかな? 炒飯くらいしか作れないけど、弟君もまだご飯食べたいんじゃないかな?」
「でも、迷惑をかけるのはダメだって父ちゃんが……」
「子供が心配すんなって。俺もアンナもこのまま幸君を放っておくほうが心配で迷惑になるぞ?」
黎人はなんとか説得をして幸の家でご飯を作る事になった。
コンビニで弁当を買って渡すのは簡単だが、黎人の目的は幸の家で父親の帰りを待って、話をする事であった。
スーパーで買い出しをした後、幸の家へと向かう。
黎人は料理は火蓮や紫音に任せていたので、凝ったものは作れない。
中高生時代に作った炒飯の素を使った炒飯くらいしか作れないが、腹を満たすにはそれでもいいだろうと、米と卵と炒飯の素を購入した。
炒飯を作り、幸と幸の弟に振る舞う。
幸はゆっくり味わった後、公園とは違った笑顔で「美味しい!」と言った。
即席な上に手慣れてないのでベチャッとしていたり味が偏っていたかもしれないが、美味しそうに平らげてくれた。
2人が食べ終えた後、家の電話が鳴って幸が出た。
「え!」
電話に出た幸はご飯を食べて元気になった顔をどうしたらいいか分からないといった驚きのような顔に変えた。
「おじさん、どうしよう。お父さんが、倒れて病院に運ばれたって……」
しどろもどろする幸と電話を変わって黎人が説明を聞く事にするのであった。




