第301話 騒動の始まり
「ねえ、バレてない?」
「当たり前じゃん。バレたら怒られるからね」
翌朝の学校、輝羅の友達だった2人はランドセルに入った沢山の駄菓子を見せ合って笑いを深めた。
「家でなんか食べた?」
「無理だよ。駄菓子なんか食べてるのバレたらお母さんカンカンだよ」
「だよねー」
話しながら、2人は登校中に長いチューブに入ったゼリーの駄菓子をチュウと吸っている。
「あのおじさんにもらった飴舐めた?」
「ううん、最後に残してある。あんま美味しそうじゃなかったし、こっちの方が美味しそうだしねー」
「私もー」
食べ終わった駄菓子をゴミ箱に捨て、学校までの道のりを歩く。
「あ、もうゴミ箱に捨てる必要なんてないのに」
「なんか輝羅ちゃんのせいで変な癖がついちゃったよね。融通きかなかったから」
2人は、そう言ってここに居ない輝羅を馬鹿にしたようにクスクスと笑った。
「ポイ捨てなんてだめですわ! ちゃんとゴミ箱に捨てないと」
輝羅のこの言葉に、駄菓子を奢ってもらう手前、言うことを聞いていたが、もうその必要はなかった。
「もう一個食べたいな」
「ダメだよ。先生に見つかったらダメじゃん」
「あー、早く学校おわんないかなー」
2人は文句を言いながら、校門をくぐった。
「なんだ、摂取してないじゃないか。つまらない。お、いいもんいるじゃない」
校門の外から、学校の中を見ていたのは昨日あの2人に声をかけた伊集院彩であった。
彩の側を、犬の散歩中の女性が歩いて行き、彩の方をその犬が威嚇するように吠えている。
「あの、すみません。いつもはこんなことないんですけど」
女性が申し訳なさそうに謝る所に、彩が笑顔で犬が吠えるのも構わずに歩いていく。
「この犬、貰うね?」
「え?」
彩は女性を殴り飛ばすと、しゃがみ込んで唸っている犬を見た。
殴り飛ばされた女性は気を失い、周りは思わぬ出来事に騒ぎ出しているが、彩はそんなことを気にせずに犬に《《飴》》を差し出した。
「おら、食え?」
そんな彩の言葉を無視して、唸っていた犬は吠えた。
「食えって言ってんだ、ろ!」
彩は痺れを切らしたように、犬の口に飴を無理やり突っ込んだ。
拳ごと突っ込んだ事で、犬の口の骨が折れてしまうが、それでおとなしくなったのをいい事に、どんどん飴を口に詰め込み、それを流し込むように《《ジュース》》を大漁に注ぎ込む。
彩が持っていた物を全て犬の中に入れ終わると、途中から痙攣し始めた犬の目がグリンとひっくり返り、骨が折れたのが嘘のように立ち上がった。
そして、先程とは違う唸り声を上げたかと思うと、かわいい小型犬だった体がボコボコと変化していき、大型犬ほどの大きさに変化した。
「よし、それじゃあ失敗作を探せ。この中にいるからな」
魔物化した犬が、学校の中に向かっていく。
その後ろを、周りの騒ぎを無視して、彩はニヤニヤとしながら歩いて行く。
「ああ、やっと会えますね、師匠」
学校に入って行く彩の瞳の片方が黒く染まっていく。
学校に入った犬の魔物は、校舎の前にいた生徒に飛びかかった。
「きゃあ!」
犬の魔物はランドセルを食いちぎり、その反動で生徒は転けてしまった。
ランドセルの中身が地面に溢れ、その中にあったある物に犬の魔物は齧り付いて丸呑みした。
そして、次の獲物とばかりに隣に居た生徒に目を向けた。
「いや! 私は美味しくないよ!」
地面に散らばった駄菓子を踏み潰して、魔物は生徒に狙いを定める。
「ランドセルを捨てるんですの!」
生徒は聞こえた声に、咄嗟にランドセルを魔物に向かって投げた。
魔物は、生徒ではなく、捨てられたランドセルを目掛けて飛びかかる。
「大丈夫ですの!」
「え、輝羅ちゃん、なんで?」
転けた生徒に近寄って起こしたのは、輝羅であった。
「放ってはおけませんの! 早く逃げますわよ!」
「なんか、立ち上がれなくて」
襲われた2人の生徒は腰を抜かしてしまい、立ち上がって逃げる事ができなかった。
「輝羅ちゃん、手伝うよ!」
「私達も!」
近寄ってきて一緒に腰を抜かした2人を助けようとしたのは、アンナと友里や樹菜達、輝羅と一緒に下駄箱にいたメンバーであった。
しかし、アンナや輝羅が助け起こす前に、目的の物を平らげた魔物がアンナ達の方に顔をあげた。
そして、魔物が子供達の中でアンナに狙いを定めて飛びかかった。
絶対絶命、そう思った時、どこかからアンナ達の前に飛び出してきた男性が魔物の腹に一撃をお見舞いした。
その男性は黎人から依頼を受けて、アンナ達を見守っていたCランクの冒険者であった。
「もう大丈夫だからね」
その男性のパートナーの女性が、アンナ達の方に声をかけて、先に避難させようとする。
しかし、男性の一撃を受けた魔物は、何も効いていないかのように回転して、尻尾で男性冒険者を叩き飛ばした。
「なに!」
男性冒険者は校舎の壁に弾き飛ばされ、校舎の一部を砕くようにして突っ込んだ。
「え、ウソ! 大丈夫?」
パートナーの女性冒険者が声をかけるが、男性冒険者は瓦礫の中で気を失ってしまっている。
「なに、コイツ、どのランクの魔物よ! クソ、銃刀法違反になるけど、この場合後でなんとかしてくれますよね、社長、春風さん」
女性冒険者は剣を抜いて、魔物に切り掛かった。
ガキンッという金属音を立てて、魔物の皮膚は女性冒険者の剣を止めた。
そして、先程の男性冒険者と同じように尻尾で叩き飛ばした。
男性冒険者と同じように、女性冒険者もその一撃で気絶してしまう。
魔物は、その2人の行動が鬱陶しかったようで、怒ったのか、大きな咆哮を上げた。
その殺気の乗った咆哮に、学校の周りにいた生徒や先生、一般の人も、魔石でステータスを上げていない人は気を失ってしまった。
周りの人が気を失う中、アンナと、なぜか隣でアンナにしがみついていた輝羅と友里だけは、腰を抜かしただけで、気を失わなかった。
しかし、この状況に限っては死ぬ時の恐怖を味わってしまうだけである。
魔物は、まだ意識があるアンナ達に狙いを定めて、飛びかかったのであった。
『願ってもない追放後からのスローライフ?』
2巻発売中!
書籍版はwebよりボリュームアップ!
火蓮と紫音のエピソードも!是非予約してださい!
書店、Amazonなどで購入できます!
もう少し下にスクロールしてもらうとリンク貼ってありますので買ってくれたらとてもとても嬉しいな。




