第297話 解決
アンナは、とぼとぼと帰り道を歩いていた。
いつもの友達と帰っているのに、楽しい気持ちはなく、その落ち込みように、友達が気を遣ってしまうほどであった。
友達に気を遣わせるのは、良くないことかもしれないが、それを取り繕うほどの気持ちの余裕は今のアンナには無かった。
友達とは、友達のマンションの前で分かれて、アンナは一人で家まで帰って来た。
家に帰ると、リビングには父の黎人が居て、他の人は出かけているようで居なかった。
「おかえり。ん、どうかしたのか?」
黎人は、アンナのいつもと違う様子に気づいて、声をかけてくれた。
「うん……」
しかし、アンナは俯いただけではっきりとした返事をしなかった。
黎人は、その様子を見て椅子から立ち上がると、コップにオレンジジュースを入れて、リビングのテーブルに置くと、ソファに座り直して何も言わずに、ポンポンとソファを叩いた。
アンナは、ランドセルを下ろして黎人の隣に座る。
黎人が手渡しで渡してくれたジュースを受け取り、一口飲んだ。
黎人は、アンナに何か聞くような事はなく、ただ、いつもと同じように隣に座っているだけであった。
「あのね、パパ」
「ん?」
「今日、紫音お姉ちゃんに借りた髪飾りを無くしちゃったの。……紫音お姉ちゃんの、大切な物なのに」
「そうか」
黎人は、アンナの独白に、相槌をうった。
「うん……紫音お姉ちゃん、アンナの事、嫌いになっちゃうかな?」
思い切って黎人に打ち明けたアンナの瞳には、大粒の涙が溜まっていた。
「そうだな。アンナは、なぜ紫音が大切な髪飾りをアンナに貸してくれたと思う?」
「え?」
「紫音はさ、可愛くなって喜ぶ、嬉しそうに笑うアンナの笑顔が見たくて、髪飾りをアンナに貸してくれたと思うな。それなのに、帰ってきた時にアンナが泣いてたら悲しいと思うぞ?」
黎人は、自分が思う紫音の気持ちを代弁した。
「でも、紫音お姉ちゃんの大切な物なのに。 ……あのね、朝に、ピンの髪飾りは外れたりするから危ないって注意してくれたお友達がいたの。その時に外しておけば良かったのに、今日だけなら大丈夫かなって、その子の言う事、聞かなかったの。ちゃんとしてたら、無くさなかったかもしれないのに」
思い詰めて、アンナの目から溢れた涙を、黎人は指で拭った。
「そっか。 ……アンナ、失敗しない人間は居ないんだよ。この前、パパが間違えてアンナの残してあったプリンを食べちゃった時の事、覚えてるか?」
「うん」
アンナは、つい最近起こった出来事だったので、すぐに頷いた。
「あの時、アンナはパパにすごく怒ってたけど、パパの事嫌いになったか?」
黎人の質問に、アンナは否定するように首を振った。
「もしかしたら、紫音もガッカリしたり怒ったりするかもしれない。でも、アンナの事を嫌いになったりしないさ。だって、紫音にとって、髪飾りよりアンナの方が大切なはずだから」
黎人は、アンナの頭を撫でながら言葉を紡いだ。
「あの時、パパとアンナはどうやって仲直りしたんだったかな?」
「パパが、アンナにごめんなさいして、一緒にプリンを買いに行ったの。それで、一緒にプリンを食べたの」
アンナの答えに、黎人は頷いた。
「そうだね。アンナ、まずはごめんなさいをしないとね。ごめんなさいがなかったら、仲直りができないから。その後に、紫音と仲直りできるようにお話ししないといけない。パパも一緒に居てあげるから、ごめんなさいしようか」
「うん……」
アンナは、ジュースを机に置いて、黎人にしがみついた。
黎人は、紫音が帰って来るまで、アンナを抱っこすると、気持ちを落ち着かせるように、背中を摩って待った。
それからしばらくして、紫音が帰ってきた。
「ただいま。アンナちゃん……」
黎人は抱っこしたままではなく、アンナに優しく声をかけて床に降ろして、手を握り、紫音を迎えに玄関まで出迎えにでた。
「紫音お姉ちゃん、ごべんなざい。髪飾り、なぐしちゃったの〜」
アンナは黎人の手をギュッと握り、紫音に謝る途中で感情と涙が決壊して泣きながら紫音に謝った。
「ぢがうんでずの、わだしが拾っだのに言い出せなかっだのが悪いんでずの〜」
アンナの言葉に、紫音が連れて来た女の子が泣きながら返事を返した。
こうなるなど予想していなかった黎人と紫音は、慌てた様子で2人を落ち着かせるために抱き上げて、なだめながらリビングに移動した。
紫音が連れて来た女の子にもオレンジジュースを出して、2人が落ち着くのを待った。
アンナと女の子が落ち着いて来たのを見はからって、紫音が話をしはじめる。
どうやら、お昼休みのかくれんぼの時に、アンナは髪飾りを落としたらしく、それを、この女の子が拾ってくれたようだ。
それなのに、この女の子はその事を言い出せずに、自分がまるで泥棒してしまったかのように、自分の事をせめてしまったようである。
紫音の説明の後に、女の子はおずおずとポケットからアンナに髪飾りを差し出した。
「すぐに、渡せなくてごめんなさい」
「ありがとう、輝羅ちゃん」
アンナは、髪飾りを受け取るのではなく、輝羅に抱きついた。
「ありがとう輝羅ちゃん」
「うん」
その反応に、女の子、輝羅は固まってしまった。
「輝羅ちゃん、僕はアンナのパパなんだけどね。アンナの大切な物を拾ってくれてありがとう。アンナは嬉しすぎて言葉が出ないみたいだ」
「え、はい」
輝羅は、自分が思っていなかった状況に目をぱちくりさせた。
アンナが落ち着いてきて、輝羅をハグから解放すると、黎人はアンナに声をかけた。
「次は、アンナの番かな?」
アンナは黎人の言葉に頷いた。
「紫音お姉ちゃん、アンナ、紫音お姉ちゃんに借りた髪飾りを一回無くしてしまったの。輝羅ちゃんが見つけてくれたけど、もっと大切にしないとダメだった。ごめんなさい」
「うん。私ももうちょっと気をつけてあげないと行けなかったね。私は小学校の時かくれんぼとかした事なかったから、気がつかなかったよ」
紫音はそう言って、アンナの頭を撫でた。
「それでね、輝羅ちゃんは、アンナちゃんと仲良くなりたいみたいなんだけど、アンナちゃんはどうかな?」
紫音の質問に、輝羅は少し緊張した顔になった。
「アンナも、輝羅ちゃんと仲良くなりたい!」
アンナが輝羅の方を向いて、とびきりの笑顔で言った。
「それじゃ、今からアンナちゃんと輝羅ちゃんが仲良くなる為に、ご飯たべて、お風呂入って遊ぼっか」
「「うん!」」
リビングに、2人の元気な声が響いた。
「大丈夫なのか?」
黎人は、紫音がこう言うのだから、準備はしてあるのだろうと思いながら確認を取った。
「輝羅ちゃんのお母さんには事情を説明する為に挨拶して来たわ。一応お泊まりの許可も取ってあるわ」
「そうか。一応、俺からも連絡するから連絡先教えてくれ」
紫音が根回しをしてくれているようだが、アンナの父親である黎人からも連絡は必要だろう。
心のつっかえが取れて、笑顔で話をする娘と娘の友達を見ながら、黎人は電話をかけるのであった。
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