第282話 家族
「「師匠のお子さんってどう言う事ですか!」」
部屋に来て火蓮と紫音の2人は開口一番にそう質問した。
詰め寄られる黎人を見て、アンナの耳をマリアが、目を譜が手で覆って見聞きできないようにしながら、「子供に続いて春も来るかしら?」「あのニブチンには無理だと思うわ」などと2人が話している。
「おばあちゃん、見えないし聞こえないよー」
アンナが譜の手をどかそうとして譜の手を握った。
その様子に、火蓮と紫音は大人気ないと思ったのか、揃って咳払いをして黎人の対面の席に座った。
「それで、お子さんってどう言う事なんですか?」
火蓮が、黎人に落ち着いて尋ねた。
黎人は、アメリカに行ってからアンナに出会った経由。それからDNA鑑定までの話を2人に話した。
話を聞いた2人は、なんとも言えない顔をした。
どういった反応をしていいのか分からなかったからだ。
「それは、何というか……」
アンナの事情を聞いて、火蓮が何かを言おうとした時、2人の間に譜がスゥッとやって来て、2人にそっと耳打ちした。
「世の中には、連れ子でも本当の家族になって幸せに暮らしている家族は沢山いるわよ」
火蓮と紫音はその言葉に耳をピクリと反応させた。
「応援するわよ?」
譜の言葉に、2人はお互いの顔を見合わせた。
譜が思うに、黎人に気持ちを寄せている女性は多い。
しかし、黎人にその気がないのと、日本の法律の問題でお互いに協定を結んで先に進まないようにしているようにも思える。
とは言っても、この2人はほぼ同棲している事実婚のような関係であると譜は理解している。
勿論、朴念仁の黎人はどう思っているか分からないが、周りから見れば家族だ。
なので、かわいい孫の為に、居心地の良い家庭環境を整える必要がある。
実際、譜自身もイギリスで夫とレベッカの3人で仲良く暮らしているのだ。
まあ、今回夫は置き去りにしてきた訳だが。
色々と、譜の話を聞いていると、火蓮と紫音にとっての今までの生活が何か変わるわけでは無いと思えてきた。
黎人に彼女や妻が出来たわけでもなく、今まで弟子が次々と増えていったように、血の繋がった子供が増えただけである。
2人は、自分達の中で折り合いをつけると、徐に席を立った。
「アンナちゃん、今日はお姉ちゃんがご飯作るよ、何が食べたい?」
「んー、ハンバーグ!」
火蓮の質問に元気よくアンナが答えた。
その笑顔に、火蓮と紫音は母性がときめいてしまった。
「それじゃあアンナちゃんもお手伝いしてくれるかな?」
「はーい!」
紫音の言葉に元気よく返事をするアンナに、自然と口角が緩んだ。
その後は、みんなでご飯を食べて、火蓮と紫音がアンナに一緒に入ろうと言われたのでお風呂に入り、それを譜とマリアが羨ましそうに見ていたり、1日で、家族のように過ごせるようになった。
そんな日がしばらく続くと、火蓮と紫音が自分の部屋に戻ろうとするのをアンナが寂しがるので、広い黎人の部屋での同棲がスタートするのだが、同棲がスタートしてもインターホンを使わなくなった位で何も変わらないのは、これまでの生活で、2人がどれだけ黎人の部屋に入り浸っていたかを物語っていた。
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